翌朝。謎の種子Xの鉢植えには(当たり前だが)何も変化がないことを確認してから畑に出た。

 畑を一瞥して、リィトは首をひねった。

「あれ?」

 小さな畑の一角には、リンゴの木。小さくて赤くて酸っぱいリンゴが生っている。

 不可解なのが、その隣だ。

「……んー? こんなの生えてたか?」

 畑の一角に、見慣れない草が生えている。

 しおしおと萎れているが、何かの野菜か薬草だろうか。

 葉っぱがハート型で、可愛らしい。

「ふむ、見たところベリー系の植物かな?」

 ポーションの原料になるベリー系の植物は、用途やランクによって実の色が異なる。けれど、葉っぱはすべて同じような見た目をしているため、見分けるのが難しい。ちまたには、苗木鑑別師という職業があるほどだ。

 リィトの見立てでは、おそらくは桃色の実が特徴の、春ベリーだろうか。ラズベリーにそっくりのお味がするので、リィトはけっこう気に入っている。『ラズベリーにそっくりで賞』をあげたい。

「まぁ、回復効果はそれほどでもないんだけどね」

 軍隊やモンスターと戦う冒険者御用達の回復役ポーションの原料といえば、赤ベリーや青ベリー、そして超貴重種の金色ベリーなどだ。

 それに比べると、春ベリーは回復効果に乏しい。ポーションにしても人体への効果は期待できず、酸っぱいジュースにしかならない。

「こんなもの、誰が植えたんだろう?」

 昨日はこんなのなかったし、たった一晩でこんなに育つはずはない。

 謎だ。謎の草だ。

 キョロキョロと周囲を見回してみる。

 ふと、視界の隅で何かが動いた。

 小さな人影が、昨日リィトが激突しそうになった大岩の影に隠れたのが見えた。というか、小さな足音も聞こえた。

「え、人……?」

 東の山と、荒れた土地。

 それくらいしかない場所で、人がいる。

 ……心霊現象?

「え、やだやだ怖いんですけど!?」

 おばけだったらどうしよう。

 そういうのは苦手なのだ。

 でも、ただ草を植えてるだけの幽霊ってなんだ?

 畑を守るのは、リィトしかいない。

 おっかなびっくり、岩に近づく。

「だ、誰だい? そこにいるのは分かってるんだぞ、手荒なまねはしたくないんだ」

 殲滅戦を得意としていたリィトは力の加減が苦手だ。