これだけ地表がカラカラに乾いていると不安だけれど……まぁ、なるようになるさ。

 期待半分、不安半分。

 おそるおそる蛇口をひねる。

 ちょろ。

 つー……。

「うん、少ない!」

 水が出た。

 労せずして、清潔な水が出た。

 でも、とても少ない。

 リィトは前世の出張先で宿泊したビジネスホテルの水圧がまるでないシャワーを思い出していた。

 しかし、地下水脈までこんなに水が乏しいのだとすると、この土地は本当に乾いているんだな。

「……ま、時間かければちゃんと水も溜められるし」

 これで、リィトが使うくらいの水は問題なさそうだ。

 となれば、もうひとつ。

「……種のひとつくらいは、育てられるかな」

 ベンリ草細工で、小さな鉢植えを作り上げる。

 軽石と柔らかく耕した土を鉢植えに重ねていく。

「うーん、埋める深さはこれくらいかな?」

 いきなり地植えにするにはリスクがある。

 まずは鉢植えで発芽させたい。

 大きさと形状からして、おそらくは樹木の種子のようだから、地面に植えるまでに苗木くらいまでは育てておきたい。

 鉢植えのの表面を、地下水で軽く湿らせておく。もう夜だから、水をやるのは明日の朝だ。

 植物魔導を操り、様々な植物の知識を蓄えてきたリィトすらも知らない謎の種子X──ついに、植えてしまった。

 一体何が育つやら。

 宮廷魔導師の資料室にあったということは、貴重なものであることは間違いないと思うのだけれど。正直、かなりドキドキする。

 それと同じくらい、ワクワクも。

 やりきった感とともに眠気に襲われたリィトは大きくあくびをした。

「ふぁ……ちょっと早いけど寝ようかな」

 鉢植えを眺めながらリンゴを三つ平らげて、リィトは新築の我が家に入った。

 寝室のベッドは、いい感じの雰囲気があるアンティーク調の家具だけれどマットレスがない。

 何かふかふかの植物でも生やそうか、と少し考えたけれどリィトはそのままごろりと横になった。

 数少ない無事だった荷物に、毛布があったのがラッキーだ。

「……おやすみなさぁい」

 誰が聞いているでもないが、そう呟いた。

 満月が昇ってすぐにベッドに入ったのなんて、久しぶりだ。

 いいね、隠居生活っぽい。

 鉢植えはベッドサイドに作った、小さなテーブルの上に。