暴れ回るツルによって土がかき混ぜられていく。

 ベンリ草は、朽ちれば良質な肥料になってくれる。

「──朽ちて眠れ」

 ぴた、とベンリ草の動きが止まる。

 ぼろぼろと朽ちて柔らかくなった土の上に散らばっていった。

「よし、ちょっとは肥料になるかな」

 作った畑の広さは、だいたい二十五メートル四方。

 大農場などではないけれど、リィト一人が幸せに暮らすための畑としては十分な広さ。

 試しに、いくつかリンゴの種子を蒔いてみた。

 使い捨てではなく、これから手をかけて面倒を見る畑なので、木と木の間には適度なスペースをあけておく。

 今蒔いた種は帝都に出回っている、赤くて小さくてちょっと酸っぱいリンゴだけれど、これからは品種改良にチャレンジするのもいいな。

 蜜がたっぷり入ったリンゴを、久々に食べたい。

「すくすくと育て」
〈生命促進〉の魔法で、畑の一角が小さなリンゴ畑になった。

 実った果実をもいで、一口囓ってみる。

 じゅわっと果汁が飛び出てきた。

「す、すっぱい!」

 うん、やっぱり酸っぱい。

 それでも、長い一日で乾いた喉が潤った。

 水の確保についても考えなくてはいけない。

 一応、荒れ地を開拓してのんびりスローライフをやり込もうという意気込みでここまで来たのだ。ちょっとした目星は付いている。

 水の問題は後回しにするのは気が引ける。

 畑仕事に使う水の調達は自力でやってみたい。けれど、自分が使う分については早急に確保するべきだ。

「……うん、ここまできたらやっちゃおうか」

 種子入れのポシェットから、その他の種子とは別に取り分けていたものを小屋の近くに埋める。一応は、これもベンリ草の一種。

「さて、上手くいくかな」

 さっそく、〈生命促進〉で育てる。

 地中深くに根が伸びていき、行き着いた地下水をくみ上げた。

「よし、あとはこうして……こう……っ」

 集中、集中だ!

 水をくみ上げることに特化したベンリ草は、地中に生えている部分はリィトの鳩尾当たりまでの低木。

 リィトはその低木の枝に集中して、〈生命促進〉と〈生命枯死〉を繰り返す。

 ねじって、ひねって、管をつなげて──蛇口を作る。

「よし!」

 とりあえず見た目は、完璧に木で出来た水道の蛇口だ。

 地中深くには、おそらく水脈もあるだろう。