このあいだの戦では、モンスターどもに奇襲をかけるためにレア属性の氷魔導師を集めてソリで高速移動をする作戦をとったこともあった。

 でも、それは一度きりの奇策として忘れ去られている。

 魔術という技術を限られた人間、つまり魔導師たちが抱え込んでいるせいで、まったくもって世の中はつまらない。アクセク働くばかりだ。

 そんなことを考えていたときに、ふと思った。

「……これ、どうやって止まるんだ?」

 こないだの大戦のときには、「止まる」というのは必要がなかった。

 帝国の敵──モンスターたちの生息域を丸ごとリィトの植物で侵略することで一網打尽にする戦法をとったわけだ。

 だから、リィトの考えの前提に「止まる」というのは存在していなかったのだ。つまり、このままではトロッコは止まらない。

 最初に構築したレールが途切れる。

 トロッコは爆速で直進した。暴走トロッコである。

 平野を爆走するトロッコの上で、リィトは腕組みをした。

「まずいよな、これ……!」

 進む先には、巨大な岩。」

 この速度でつっこめば、ただでは済まない。

 手持ちの草花の種子を全て使ってもふもふのクッションを作ることはできるだろうが、種子の無駄遣いがすぎる。

 何もないところから種子を生み出すことはリィトの植物魔法でもできない。ガルトランドまで戻るのも手間だし、できれば最終手段にしておきたい。

「ぶ、ブレーキ……!」

 車輪を強く挟み込む。

 急ブレーキをかければスリップの危険はあるけれど、岩に激突するよりはダメージが少ないと思う。

 一応は、高級ポーションの素である赤ベリーも少し持っているしね。

 ガガガガ、と耳障りな音とともに車輪を挟み込んだ枝がきしむ。

 なんだか焦げ臭い匂いがする。

 摩擦で枝や車輪が過熱されているようだ。

 白い煙もあがってきた。

 いきなり燃え上がることはないだろうけれど、これはまずい。

「けほっけほっ! と、止まってくれ……って、あぁ!?」

 車輪が小石に乗り上げた、ガコンという衝撃。

 空高く投げ出されるリィトの身体と荷物。

「う、うわーっ!」

 まずい。

 このまま地面に叩きつけられたら、大怪我するぞ。

 リィトはポシェットから種子を取り出し、落下地点に投げつける。

「すくすくと育て!」