伸びた蔦が種子を運び、運んだ先でまた芽吹いて育つ。

 太いツルが二本、緩やかに蛇行しながら丘の下まで伸びていく。

 二本のツルを繋ぐ枝が、等間隔に茂る。

 ──そう、レールだ。

「あとはトロッコだな」

 足もとに蒔いた種子に手をかざす。

 もう一度、〈生命促進〉。

 ツルは育って絡み合い、リィトの思い描いた通りのトロッコに姿を変えていく。まるで、何もない空間からトロッコが出現したように見えるだろう。

 この世界にはありふれた植物だが、何世代もかけてリィトが品種改良を施したものだ。リィトの魔力と相性がよく、植物魔導の基礎である〈生命促進〉だけで様々なことができるようになった。

 ベンリ草。

 リィトは、この可愛いツル科の植物にそう名付けていた。

 センスとか知らない。わかりやすいのが最高。

 とにかく、レールとトロッコ作りなど朝飯前なのだ。

「……よぅし、仕掛けは流々だ」

 出来上がったトロッコに乗り込む。

 真円に育ったツルは、レールとしっかりと噛み合った。

 あとは仕上げをご覧じろ、だ。

 トロッコに荷物を載せて、ぐっと押す。

 丘のてっぺんから、トロッコはゆっくりと動き出す。

 車輪が充分に回転し始めたところで、リィトは自分もトロッコに乗り込んだ。ガルトランドの服飾ギルドで買った服は、機能性にも優れているらしい。

「いっけぇ~!」

 傾斜によってぐいぐいと加速していくトロッコ。

 普通の車体ではなく、あちこちから枝や葉っぱが飛び出しているベンリ草トロッコだ。少しの不安はあるけれど、一応はリィトの魔法でブレーキはかけられる。

 もちろん、速度を操る魔法なんて使えないから、太めの枝で車輪を挟み込んで抵抗をつけて減速させる仕組みだけれど。いわゆる、ディスクブレーキというやつ。

「おお、おお~!」

 走る、走るぞ。

 自作のトロッコで、風を切って斜面を走り降りていく。

「ひゃっほーぅ!」

 これは、最高だ。

 ジェットコースター的な楽しさがある。

 動力さえどうにかなれば、下りだけではなく登りもどうにかなるかも。そうなれば列車開通か。

 この世界〈ハルモニア〉は、動物と荷車に移動が頼りきりだ。

 旅もそうだし、輸送もそう。