「……頼みますよ、マスター。ただでさえ、道具に疑似人格を与えている時点でちょっとアレでアレなのですから」
「アレって言うなよ! せっかくちょっとしんみりしてたのに!」
リィトがツッコミをいれると、ナビは少しだけ嬉しそうに微笑んだ気がした。
「──ご下命を。マスター」
人工精霊、ナビ。
ナビゲーターのナビだ。
リィトが転生者としてこの世界〈ハルモニア〉にやってきたときに、自分にだけ聞こえる声があることに気がついた。
いわゆる、ゲームのナビゲーター的なシステムメッセージ。
植物魔導にのめりこむ前のリィトにとって、ちょっとした鑑定や索敵、マッピングなどをこなしてくれるその声は相棒のようなものだった。
リィトは転生してから、ナビの存在を隠し続けていた。
見せびらかすようなものでもないし、悪目立ちもしたくない。そもそも、ナビの存在は他の人には認識できなかったのだ。
それに、何より。
なんでもかんでも、上手くいったらつまらない。
試行錯誤が楽しい。
そう、リィトはほぼ自動で起動する音声ナビなしでもやっていける人間だった。だから、ナビを人工精霊にした──便利なナビゲーションではなくて、気の置けない相棒になってほしかったから。
自分を道具だと言い張るくせに、寝ぼけ眼のリィトを勝手に叩き起こしてドヤ顔をしている愉快な相棒。
気が乗らなければリィトの頼みも普通に断る人工精霊に、リィトは久々に、頼み事をした。
「マッピングを起動、頼んだよ」
「了承。あるじを中心とした半円状の地形測量を開始します──」
誇らしそうに嬉しそうに、魔導を起動するナビ。
今日は機嫌が良さそうだ。
やっぱり、ナビはただの道具なんかではない。
◆
ナビの簡易マッピングでちょっとした地図を作成した。
久々にリィトの役にたって満足したナビは、また休眠モードになってくれた。人工精霊は主人の意思と連動している。呼び出せば起動し、そうでなければ休眠しているのが基本だ。
「さて、と」
地図とペンを片手に、周囲を歩く。
細かいところは修正が必要なのも、リィト好みだ。
「平地はここだけで、あとは雑木林や産地か……川の様子を見ると、たぶん泉は山の中に湧いてるんだろうなぁ」