ひとりの、人格ある精霊だ。

 リィトがそうあってほしいと考えて、そう作ったから。

「おはよう、ナビ。久しぶりだね」

「笑顔で誤魔化すおつもりなのですね、マスター」

 だから、寝起きの主人のほっぺたをけっこうな強さでグリグリと人差し指アタックをかましたりもする。痛い、だいぶ痛い。

 ナビが無表情な、けれど明らかに非難する視線でリィトを見下ろす。

「起動リクエストが長期間なかったため、ナビは緊急モードにて顕現いたしました。マスター、何があったのですか」

「何が、かぁ……」

 リィトはもごもごと誤魔化した。

 相手も意思ある精霊だ。悪いとは思っているのだけれど──やっぱり、美味く丸め込みたいところだった。

 ナビはこう見えて、リィト過激派。

 本人がなかば望んでいたことであっても、宮廷を追放されたなんて知れば三ヶ月くらいはノンストップで帝国と同僚を罵り続けただろう。

 義憤に駆られてのこととはいえ、リィトを思ってのこととはいえ。

 正直ちょっと面倒くさいので、帝都を完全に離れるまではナビを休眠モードにしていたわけだけれど。

(起動を完全に忘れてたとか言えない……!)

 じーっと穴があくほど見つめられると、罪悪感がすごい。

 見ないで。

 そんな、穴が空くほど見ないで。

「……マスター。あなたがナビの力をなるべく使わずに過ごしたいという考えなのは理解しています」

「うん」

「しかし、マスターに求められないとナビは悲しく思います」

「うん……ごめん」

人工精霊(タルパ)は自律駆動をする道具です。道具なのです、マスター」

 ナビは「道具です」と念押しした。

「──道具は、使われないと寂しいのですよ」

 声に少しだけ感情が滲んでいる。

 リィトは素直に頭を下げた。

 それなりの期間一緒に過ごしてきたナビのことを道具だとは思っていないけれど、ナビの言葉を否定するのもちょっと違う。

 正直に、今に至るまでの経緯を伝えた。

 かなりマイルドに伝えた結果、ナビが帝国や同僚たちを口汚く罵るターンは一時間ほどで収まった。かなりの戦果だ。ただし、その内容はとてもではないが人に聞かせられないものだった。

「……完了(ふぅ)、スッキリしました」

「スッキリとかするんだ、道具なのに」

「マスター、何か?」

「なんでもありません」