翌朝。

 テントに朝露がついているのか、ひんやりとした空気にリィトは覚醒した。

 いや。

 寒いのは朝露のせいだけではない。

 とてつもなく冷たい視線を感じて、リィトはゆっくりと瞼を開けた。

 リィトの体に馬乗りになって、じぃっとリィトの顔を見つめている無表情な美女。透き通るような白い髪に、紅玉色の瞳。

 年齢はリィトよりもわずかに年上、といったところだろうか。

 聡明そうな顔つきに、氷の美貌。よく通る、抑揚の希薄な声。

 手足はすらりと長く、これまた白い服を着ている。

 この世界から薄皮一枚とちょっと浮いている。なぜってその輪郭はわずかに、ホログラムというかピクセルっぽい虹色の四角に揺らいでいる。

 人工精霊(タルパ)

 名はナビ。

 転生者として過ごしている中で、ひょんなことから生成してしまったリィトの守護者だ。いや、保護者というか、なんというか。

 とにかく、とても便利で、

「……我があるじリィト・リカルト、起床を要求します。ナビが寂しいので」

 とても、口うるさい。

 人工精霊(タルパ)は失われた古代魔導の奥義で、帝国では半自律式魔力生命体とか名付けられたはずだ。まだ存在自体が極秘扱い。

 モンスターが湧き出てくる地下迷宮(ダンジョン)に潜入した際に偶発的に発見された技術だ。

 数体の人工精霊(タルパ)が宮廷魔導師によって捕獲され、トップの魔導師たちによって実験的に使役されている。もっとも使役といっても命令されて動く雑用人形程度だけれど。

 だがナビは自律型の人工精霊(タルパ)だ。自分の意思で動く。

 特別製──色々あってリィトが一から創り上げた人工精霊(タルパ)だ。

 今のところは人工精霊(タルパ)はリィトにしか作れないが、研究成果を根こそぎ帝都に置いてきた今となっては、他の魔導師が再現する可能性もなくはない。まぁ、相当に時間はかかるだろうけれど。

 人工精霊(タルパ)にとって主人の命令に絶対だ。

 前世でいえば、「へい、ナビ!」と呼びかければアプリを起動したり明日の天気を教えてくれたり、ちょっと小洒落たやり取りをスクショさせてくれたりする存在のようだ。

 けれど、ナビは少し違う。

「マスター、返答を要求します。寝過ぎて脳みそ腐りましたか」