帝都にいれば大図書館で調べることも出来たはずだが、この土地ならば実際にこの種子を育てることが出来る。

 どちらが面白いかなんて、明白だ。

 テントの設営、開始。

 汗水垂らして、悪戦苦闘。

 寝泊まりの出来るキャンプが完成する頃には、すっかり日が暮れていた。

「うーむ、結局ちょっと魔法でどうにかしてしまった」

 テントを支えるポールがどうしても立てられなかったので、持ってきた種を植物魔導〈生命促進〉で育ててポール代わりにした。

 テントを夜露や突然の雨から守ってくれる天蓋、いわゆるタープがないのも不安だったので乾いた土地でも育つ木の種子を蒔いて茂らせてしまった。

 西の地平線が薄紫色に染まり、もうすぐ夜が来る。

 薪にするのに適した木を〈生命促進〉で育てて切り倒す。

 切ったばかりの水分が多い木材は焚き火には適さないので、〈生命枯死〉で少し乾かそうと思ったのだが──

「あれ、おかしいな」

 上手に乾燥せずに、薪のほとんどがカラカラになって朽ち果ててしまう。

 枯葉と枯れ枝はたくさんできたけれど、火を付ければすぐに燃え尽きてしまうからゆっくり焚き火をすることはできない。

「ふむ、雑木林で拾ってくるしかないかぁ」

 そもそも、枯死と乾燥は違うのだ。

 時間をかけてゆっくりと乾かすのが、長く燃える薪を作るコツなのだろう。

 最初の夜から、ちょっとした課題発見。

 いいね、面白い。

 メモ帳に「薪作り研究」と書いた。

 メモ帳といってもガルトランドの市場で鉄貨一枚で投げ売りされていた紙の束を束ねたものだ。むしろこういうハンドメイドがいいのだ。

 メモ帳には「謎の種、育てる」とか「ログハウス作り」とか色々と書いてある。やりたいことメモをジッと眺めてしばらく考える。

 うん、全部楽しそうだ。

 でも、本当にやるべきことは。


 ──好きなことをして、楽しく自由に暮らす!


 リストの一番上に、大きく書いた。

 よしよし、これでいい。

 やり込みがいのある毎日のはじまりだ。

 少し離れた場所に立ち枯れた木を数本見つけたので、そこにブドウの種子を蒔いた。ブドウのツルが枯れ木に巻き付いて見事な棚を形成する。

 乾いた土地で育てるのに適しているフルーツだ。今夜の夕食にしよう。