「そういう気遣いをしてもらえるだけで、ありがたいですよ。世の中、受付係は何を言ってもいい自律式ゴーレムか何かだと思っているやつが多くて困る」

 ぽろりと受付業務の闇を垣間見せるおじさんに、純金貨千枚分の硬貨を耳を揃えて渡す。

 何度も数え直して、受付のおじさんは大きく頷いた。

「これで売買契約に入れますね……まだ若い坊やかと思ってたら、あなた一体何者ですか?」

「ははは……まぁ、このとおり帝国出身で」

「見ればわかりますよ、紋章付きは目立ちますから」

「近くに服屋ってあります?」

「服飾ギルドの小売店が二つ隣です」

「あとで行ってみます」

「……あと三十分でタイムセールですよ」

 めちゃくちゃ親切なおじさんだった。


 登記と支払いの準備は日没までには完了するらしい。

 迅速な対応だ。おじさん、ありがとう。

 リィトはそれまでの時間つぶしに、少し街をぶらついてみることにした。


 ◆


 うーん、とリィトは伸びをした。

 タスクを終えてぶらつく街。

 うん、とても晴れやかな気分だ。

 露店で買ったソーセージバゲットをぱくつきながら、ガルトランドの街を歩く。本当に、活気のある街だ。帝国からの旅人を珍しがっても、誰もリィト個人のことなど気に留めない。久しぶりの行楽をリィトは楽しんだ。

「これ、本当に似合ってるかな」

 服飾ギルドのタイムセールに行くと、店員のお洒落な女性に取り囲まれてアレコレとコーディネイトしてもらえた。

 ざっくりとした素材のシャツとゆったりとしたズボン。

 リィトのリクエストもあり、アウトドアに適した素材でできている。

 そして、なかなかにお洒落だ。

 タイムセールということもあり、かなり安く着替えを手に入れた。

 服を着替えてしまえば、すっかりリィトは街の雑踏に溶け込むことが出来るようになったようで、視線がほとんど気にならない。モブだ、やったね。

「……とはいえ、これ以上は無駄遣いできないな」

 土地を買ったあとに残った金は、だいたい三十万円ほどだった。

 このあとの生活の準備にかかる金もあるわけだから、ほとんど無一文に近いだろう。

 破格の値段で広大な土地を買えた。

 明日からは、リィトは開拓者だ。

 誰もいない土地、何にも縛られない時間。