「これ、君に預けられるかな。もし希望するなら、定期的に卸せる状態にあるよ」

 赤ベリーの種子は、すでにより分けて保存してある。

 腰を据えて栽培できれば、量産は難しくないだろう。

 乾燥も急がなければ、天日干しでできるだろうし。

 ただし、一気に売ってしまえば、市場価格が下がってしまう。

 品薄・高騰の状態をある程度維持しつつ定期的な購買ルートを自分だけが握っている状態──それがミーアにとっては理想なはずだ。

「じゅるり……」

 ミーアがリィトの持っているかごと、リィトの顔を何度も見比べる。

「い、いくらにゃ! いくら欲しいのにゃ!」

「……これくらい。手付金でね」

 リィトは純銀貨四百三十枚を提示した。

 値切られたときのための保険と、もし交渉が成立した場合に少しでも手元に残るように、必要な純銀貨四百枚に少し上乗せをした形。

「ふみゅ」

 ミーアはじっと考えて、取引が妥当だと判断を下した。

「じゃあ、交渉成立だね」

「ヤバいスジの若旦那とかじゃないのにゃ? 本当にゃ?」

「うん。あ、でも仕入れ先は今後はちょっと遠いところになるけど」

 購入予定の土地の場所を伝えるとミーアは少し驚いた顔をしたけれど、必ず買い付けに行くにゃ、と意気込んだ。

「ところで、お客さんの名前は?」

「リィトだ」

 名前も知らない初対面で大口取引。持ち込んだ商品とリィトの主張の妥当性を検討して信用してよいと判断をしてくれたのだろう。

 リィトを肩書きや前情報ではなく、行動で判断してくれた。

 そう考えると、ちょっと嬉しくなってしまう。

「ありがとう、ミーア。交渉成立だね」

「やったーっ! これでノルマ無視してだらだら寝てたぶんの借金を全額親方に返せるにゃ!」

 ミーアは大喜びした。

 ……本当に、いい商人だよね?


 ◆


 土地管理局に戻ると、受付のおじさんが驚いたような嬉しいような複雑な表情でリィトを出迎えてくれた。

「本当に戻って来やがった、まだ昼休憩前だってのに……」

「すみません、休み時間まぎわに」

 ランチタイム前に大きな仕事が舞い込んでくるとわりとウザい。

 前世でも勤め人としての経験はそれなりにあるため、気持ちはよくわかる。