受付のおじさんの目の前で、資産を数える。

 合計で九千六百万円くらいの資産が革袋に入っていた。

 土地購入にはあと四百万円ほど足りなかった。

「ミスリル貨のほかに大金貨(ゴルゴルド)まで持ってるなんて……」

「うぅん、でもちょっと足りないなぁ」

 そんなぁ、とリィトは肩を落とす。

 これだけあれば、すんなり理想の土地が手に入ると思っていたのだけれど……こういう面では自分は少し世間知らずなようだった。

「ギルドに入ってはどうです? 見たところ魔導師さんみたいだし。魔術師ギルドか魔導具ギルドにでも入ってくれれば、頭金がこれだけあれば、ローンも組めますし」

「いや、それは嫌ですね」

 リィトは即座に否定した。

 もう人付き合いとかが発生する組織に入るのは嫌なのです。

「では、諦めますか?」

「いえ」

 そっちも、否だ。

「稼いできます。夕方……いえ、昼過ぎまでには戻りますので、土地購入の準備をしておいてもらえませんか。こんないい土地、すぐに売れてしまうかも」

「は?」

 ぽかん、とする受付のおじさんをあとに残して、リィトは財布を鞄に戻して駆け出した。

 できることは、あるはずだ。


 リィトの背中を呆然と見つめる受付のおじさん。

「いやぁ、いい土地って……こんな荒野が?」

 妙な子だ、と呟いて、あれこれと書類を取り出す。

 ふつうなら虚言としか思えない「昼過ぎまでに四百万円を稼いでくる」という言葉だが、とりあえず登記の用意だけはしておこうと思ったのだ。


 ◆


「うーん、四百万円か」

 リィトは街中を歩き回りながら考える。

 時間をかければ稼げなくはない金額だ。

 帝国で冒険者をしていたときには、国から発注されるクエストをこなして賞金を得ていた。危険で難易度の高いモンスター討伐などは金貨五百枚から千枚ほどの成功報酬を得ることが出来た。

 だが、そんなクエストは年に数本出るかどうかだし、上大陸では新たにモンスターは出現しない状況になっている。対魔百年戦争は人の勝利に終わったのだ。

「となると、経済活動になるけど……」

 なるべく、高く売れるものが必要だ。

 リィトにできるのは、植物を育てること。

 農作物はあまりに作りすぎれば価値が暴落する。たくさんあっても、人間が食べられる量には限りがあるからだ。