それは仕方がない。街を作り上げている人たちを大切にするのは道理にかなっているから。

 リィトは問題ないと伝えた。

「なるべく、人里離れた土地を買いたいんだ。金額についてはある程度余裕がありますので、いくつか条件を出させてほしい。

 ひとつ、平地が確保されていること。ふたつ、敷地内に川が流れているか泉が湧いているか……とにかく水場があること。そして、みっつめは──それなりの荒地がいいです」

 平地、水場、そして人目のなさ。

 前の二つはリィトの目的──もうとにかく、大好きな植物と魔導の研究をしまくることのために必要な条件。三つ目の条件は、リィトの自由のために必要な条件だった。

 とにかく目立たず、話題にならず、のんびり自由に暮らしたい。

 英雄とか聖者とか、新進気鋭の魔導師とか。

 もうそういうのは充分に味わったから、しばらく独りにしてください。

「そうですね、その条件に合うのは……」

 受付のおじさんが土地の目録から一枚のペーパーを取り出した。

 リィトは、その紙に書かれた条件を見て、大きく頷く。

「ここにします」

「えっ、即決?」

「はい」

「辺境のクソ田舎……じゃなかった、閑静な土地とはいえ安い買い物じゃないよ?」

 受付のおじさんが、値段を指さす。ギルド自治区の管理する土地の中では安い値段で買えるものだが、リィトのような若者がふつうに買える値段ではない。

「見間違えてないかい」

 受付のおじさんが、リィトの持ってきた財布をちらりと見る。

「というと?」

「ここ、千枚って書いてあるだろう。銀貨や金貨じゃなくて大金貨(ゴルゴルド)だよ? ふつうは大金貨(ゴルゴルド)なんて使わないけど、土地売買独特の記法なんだよねぇ。銀貨と勘違いしてない?」

 大金貨(ゴルゴルド)千枚。

 つまり、だいたい一億円くらい。

 かなりの広さの土地の値段としては妥当かもしれない。

 荒野だし、未開拓だし、やや割高感はあるけれどギルドに所属していない人間は多めに金を支払うというのがガルトランドの基本らしいということは、リィトもわかってきている。

 むしろ、売ってくれるだけ御の字だろう。

 なにせリィトは、どこのギルドにも入る気がないのだ。

 ほら、人付き合いとか、もうこりごりだし。

「ふむ……」