猫人族だ。帝都では珍しかったが、ギルド自治区の街中ではちょくちょく見かけている。

「おあ……わがはいをいじめていた連中に……天罰が下った……だとぅ!?」

 白くてふわふわの髪をした猫人族の少女の目が、キュピーンと光る。

(え、一人称が『わがはい』なのか……癖が強いな、あの子……)

 僕っ娘ならぬ吾輩っ娘とかさすが猫人族、とリィトが感心していると。

 猫人族少女の瞳孔がかぱっと開いて、リィトをとらえた。

 まずい。

 とっととこの場を立ち去ったほうがいい。

 そう思って踵を返した瞬間に、路地裏から飛び出してきた猫人族の少女の声が、リィトの背中を追いかけてくる。

「そこなお人ーぅ!」

 思わず、振り返ってしまった。

 バッチリ目が合ってしまう。

「あなた、そこのあなたですぅ!」

「ん?」

「うしろを振り返っても誰もいませんぞ」

「えー、あー、もしかして僕に何か用ですか?」

 よし、しらばっくれよう。

 猫耳をぴこぴこさせて、こっちに詰め寄ってくる女の子。

「わがはいを助けてくださったのは、もしかしてあなた様か?」

「違います」

「なう~? ここにはあなたしかいないですぞぅ」

「違います、違う!」

「でーもーでーもー!」

「とうっ!」

 ぽいっ、と投げたのはマタタビの種子。

 〈生長促進〉によって、たちまち実を結ばせる。

「……ふにゃあ~?」

 猫人族の少女は、目をハートにして崩れ落ちた。

「わ、わー! 誰かー! 女の子が倒れているぞー!」

 リィトが大声をあげると、大通りの向こうから女性の集団がやってきて、「やだ、大丈夫?」と口々に声をかけていた。

「よし、今だ!」

 ダッシュで逃走。

 宿屋に飛び込んで、高速チェックイン。

「はぁ、はぁ……」

 なんとか逃げ切れた。

 あの女の人たちもいい人そうだったし、ひとまずあの子も安心だろう。

 好奇心旺盛そうな子だったが、妙な噂にならないといいけれど。

「ふぅ……今日は疲れたなぁ」

 熱いシャワーを軽く浴びて、ごろりとベッドに横になる。

 シャワーがあるのも自治区ならではだ。ありがたい。

 旅が続いていたから、久しぶりの寝床。仰向けに横たわると、疲れが背中から吸い取られていくような気がする。

 もちろん、星空の下のキャンプ生活も楽しいけどね。