どちらにしても、見たくもないものだった。

(……嫌だな、ああいうの)

 目立つのは嫌だけれど、それ以上に目の前で不愉快なことが起きているのは耐えがたい。

「おら、お前のとったメモをこっちに渡せ……情報ギルドがこそこそと嗅ぎ回りやがって」

「お嬢ちゃんよぅ、これ以上は乱暴なことしたくねぇんだわ? 頼むぜ?」

「っつーか、おたくがうちのギルドのシマ嗅ぎ回ったのが悪いんだよぉ?」

 チンピラ風の男が、三人。

「警邏団に見つかるとやっかいだ、声を落とせ」

「顔は殴るな、売り飛ばすときに値が下がる」

 そこそこに実力がありそうなリーダー格のやつらが、二人。

 合計で五人。

 それに対して被害者は。

「……うにゃあ……まぁったく、粗暴なやつらは嫌だな……」

 とか、飄々とぼやいている小柄な少女がひとり。

 ボコボコにされて地面にダウンしているのに、根性があるな。

 たちが悪いチンピラだな、これは。

 リィトはポケットに手を突っ込む。

 内部はさらにいくつかのポケットに分かれていて、そのポケットの中にはビスケット──ではなく。

「よ、……っと!」

 種子が入っている。

 リィトの手から節分の豆まきのごとく放り出されたのは、植物の種子だった。ころころとした粒状の種子。

「──すくすくと育て」

 ツル科の植物だ。

 リィトの命令通りに、とんでもない勢いで生長する。

「うわ、な、なんだ……ヘビか!?」

「どうしてモンスターがこの街に……うわー!」

 種子から育った植物が、チンピラ五人をグルグル巻きのミイラのようにしてしまう。仕上げにネムリ草と名付けた花粉に強い入眠効果のある植物を、倒れたミイラの頭に開花させる。

「きゅうっ」

 ミイラにされたチンピラたちはすやすやと眠った。

 これでよし、とリィトは周囲を見回す。

 どうやら誰にも見られていないらしい。少し繁華街からは離れていたのが幸運だった。

「……にゃ?」

 ボコボコにされていた少女が顔を上げた。

 目立った怪我はないようで、ほっとした。

「あれ? うわ、なにこれ!」

 むくりと立ち上がった少女の頭には、耳が生えている。よく見ると、尻にも尻尾が揺れている。ふわふわの毛に覆われた耳と、ふさふさの尻尾。