「こ、このチーズとっても美味しいですっ!」
「それはよかったわ。あなたも、頑張ってね。まだまだ若いんだから」
女将はそう言って片目をつぶって見せると、他のテーブルに注文を取りに行った。女将が行く先々で笑い声が起きる。
うん、本当にいい店だ。
(それにしても、そうか……二つ名しか情報が流れてないのか……)
さきほどの女将の反応。
どうやら、リィト・リカルトの名には本当に覚えがなさそうだ。
ギルド自治区ガルトランドの〈壁〉はやはり高いようだ。
上大陸で大量発生するモンスターから領土を守るために築いた壁のおかげで、モンスターもリィトの噂もここまでは届いていなかったらしい。
(うん、これはいいぞ)
リィトは酔い覚まし、というか興奮を冷ますためにビールのおかわりではなくフルーツジュースを注文した。
青臭くて味の薄いジュースを一気に飲み干して、リィトは思わずニンマリと笑ってしまう。
運送ギルド〈ねずみの隊列〉に所属するメルですら、リィトが名乗ったときに少しも驚いたりはしていなかった。
(やっぱりだ……自治区までは僕の名前は届いてない……!)
つまり。
ここでは本当に、自由なのだ。
◆
酒場をあとにしたリィトは、予約した宿屋に向かうことにした。
おつまみは、やはり種類も少なく、味もしょっぱいか薄いかのどちらかだったけれど、久々のひとり酒は楽しかった。
「はぁ、自由っていいな~。無職って素敵だ~」
青い月明かりが降り注ぐ夜道に風が吹いて気持ちがいい。
ポケットから例の物を取り出す。
元職場から唯一持ち出した、青く美しい光を放つ、謎の種子だ。
「この種子、なんだろうなぁ……ふふふ、育てるのが楽しみだなぁ」
思わず頬が緩む。
どんな環境が適している植物かは知らないが、この大きさの種子であればそこそこの巨木に育つはず。
リィトが新天地にここを選んだ理由は、それだ。
「さて、明日は忙しいぞ。農業ギルドと土地管理局に行って。あとは買い出しと……って、んん?」
宿までは、あと少し歩けば到着する。
けれど、見つけてしまったのだ。
路地裏。小さな人影。それを取り囲む、どう見てもガラの悪い連中。
「あー……」
カツアゲだ。
あるいは、リンチ。
「それはよかったわ。あなたも、頑張ってね。まだまだ若いんだから」
女将はそう言って片目をつぶって見せると、他のテーブルに注文を取りに行った。女将が行く先々で笑い声が起きる。
うん、本当にいい店だ。
(それにしても、そうか……二つ名しか情報が流れてないのか……)
さきほどの女将の反応。
どうやら、リィト・リカルトの名には本当に覚えがなさそうだ。
ギルド自治区ガルトランドの〈壁〉はやはり高いようだ。
上大陸で大量発生するモンスターから領土を守るために築いた壁のおかげで、モンスターもリィトの噂もここまでは届いていなかったらしい。
(うん、これはいいぞ)
リィトは酔い覚まし、というか興奮を冷ますためにビールのおかわりではなくフルーツジュースを注文した。
青臭くて味の薄いジュースを一気に飲み干して、リィトは思わずニンマリと笑ってしまう。
運送ギルド〈ねずみの隊列〉に所属するメルですら、リィトが名乗ったときに少しも驚いたりはしていなかった。
(やっぱりだ……自治区までは僕の名前は届いてない……!)
つまり。
ここでは本当に、自由なのだ。
◆
酒場をあとにしたリィトは、予約した宿屋に向かうことにした。
おつまみは、やはり種類も少なく、味もしょっぱいか薄いかのどちらかだったけれど、久々のひとり酒は楽しかった。
「はぁ、自由っていいな~。無職って素敵だ~」
青い月明かりが降り注ぐ夜道に風が吹いて気持ちがいい。
ポケットから例の物を取り出す。
元職場から唯一持ち出した、青く美しい光を放つ、謎の種子だ。
「この種子、なんだろうなぁ……ふふふ、育てるのが楽しみだなぁ」
思わず頬が緩む。
どんな環境が適している植物かは知らないが、この大きさの種子であればそこそこの巨木に育つはず。
リィトが新天地にここを選んだ理由は、それだ。
「さて、明日は忙しいぞ。農業ギルドと土地管理局に行って。あとは買い出しと……って、んん?」
宿までは、あと少し歩けば到着する。
けれど、見つけてしまったのだ。
路地裏。小さな人影。それを取り囲む、どう見てもガラの悪い連中。
「あー……」
カツアゲだ。
あるいは、リンチ。