リィトはどうにか、水が落下するのを止めようとしたが──。

「あっちゃ……」

 ばしゃ、と。

 沢の水が、地面にまき散らされた。

 多量の魔力を含んでいるとおぼしき水が、謎の苗Xに。

「ご、ご、ごめんなさいですにゃ……」

「あー、大丈夫。大きい声出してごめん、マンマ」

「うにゃあ……」

 普段は飄々としているマンマが、目を潤ませて硬直している。

 大変なことをしてしまった、と軽いパニックに陥っているようだ。

 アデルがマンマを抱き上げて、慰めてくれている。

「うーん、とりあえず、見た目は変化なしかな……?」

 沢の水をかぶった謎の苗Xは、今のところ特に問題なさそうだ。

 急に大樹に成長したり、あるいは触手っぽいバケモノ樹に変化したりはしていない。不幸中の幸いだ。

「とりあえずは経過観察だな」

 ふぅ、とリィトは胸をなで下ろす。

 アデルが「あら?」と周囲を見回す。

「……トラの姿が見えないわね」

「ん?」

「山に帰ったのかしら?」

 猛虎型モンスターといっても、マンマやミーアと同じく猫の魂を持つ生き物だ。気ままな性質なのだろう。

 夜も更けてきた。

 花人族たちは、ほとんどが眠りにつこうとしている。

「そろそろ、僕らも寝ようか」

 リィトの一言で、今夜の宴はおひらきになった。

 煌々と月の明かりがトーゲン村を照らしている。

「明日は、沢を調べてみよう」

「ふにゃっ、わがはいも一緒に行きたいですにゃ……さっきのおわびは、体で支払うのにゃ」

 と、マンマ。

 すっかりしおらしくなって、酔いも覚めてしまったらしい。

「そうだね、何か情報を探るならマンマの出番かも」

「まっかせてくれですにゃ!」

「では、明日に備えて眠りましょう。わたくしは、少々鍛錬をしてから休みますわ」

「え、アデルも来てくれるのかい?」

「ええ、もちろんですわ。リィト様」

 にっこり、とアデルは微笑む。

 リィトを帝国に連れ戻そう、という目的はいったん忘れてくれるらしい。

 トーゲン村の暮らしを、かなり気に入ってくれているらしい。

「遺跡を探して散策なんて、楽しそうです……それに」

「それに?」