「水が足りないんだ」

「み、水……ッ」

 リィトの植物魔導と花人族たちの卓越した緑の手で、かなり立派な畑になっている。

 収穫量だって安定している。

 でも、今が最大限だ。

「地下からくみ上げられる水には限度があるんだ。それに、地下水脈だって枯渇する可能性がある」

 それくらいに、この土地の水の乏しさは異常だ。

 東の山に見つかった沢だって、本当に小さなものだ。

「お、終わったニャ……」

「顔面蒼白だぞ、ポーション飲むかい?」

「う……毛玉吐きそうニャ」

「そ、それはちょっと!」

「むっふっふ~~~、ミーアよ、わがはいの口を舐めるがいい」

「マンマ? どうしたんだ、珍しく酔っ払ってないじゃないか」

「リィト氏はわがはいのこと、なんだと思ってるのですにゃ。わがはい、さっきベロベロににゃって水を浴びるように飲んだから酔いなどふっとんだのですにゃ~」

「ベロベロだったんだ……」

 猫人族、自由すぎるだろう。

 リィトは少しだけ呆れながらも、マンマの手に一枚の書類があるのに気がついた。

「それって……?」

「ふふふ、トーゲン村の水不足が解消するかもしれないのにゃ~」

「えっ」

 マンマの報告書には、こう書いてあった。
『下大陸荒野部における水精霊神殿遺跡存在の可能性』。

「発掘ギルドの連中からのリークだにゃ。この報告書によると、近頃、帝国から流れてきた古文書が情報源らしいにゃ」

「帝国から流れてきた……?」

 もしかして、とリィトは嫌な予感に襲われる。

 リィトが管理していた、古い資料室──あそこにあったものを『ゴミ』として廃棄していたとしたら、それがギルド自治区まで流れ着く可能性はある。

 今の宮廷魔導師団が、そこまで愚かだとは思いたくないけれど。

「水精霊か……その資料、少し見せてくれる?」

「ふにゃ~……わがはいに感謝するといいですにゃ~♪」

「うん、ありがとうマンマ」

「礼ならマタタビ酒でじゅーぶんですにゃ。あ、ミーアより多めに!」

「りょーかい」

 古文書の出所が資料に書かれていないだろうか、と目を通す。

 すると、驚くべき発見があった。

「え、この紋章って」

 沢だ。

 あの小さな沢に刻まれていた紋章に、そっくりだった。

「与太話じゃないの!?」