情報ギルド〈ペンの翼〉のお手並み拝見だ。

「せっかくだから、ここの水を少し貰っていこうか」

「はいっ」

 水筒に、沢から水を分けてもらうことにする。

 不可解な紋章といい、周囲に満ちている空中魔力(エアル・マナ)といい、自分で飲むのは少し腰が引けてしまうけれど、サンプルとして手元に置いておきたいところだ。

「……よし、と」

 水筒にたっぷりの水をいただき、リィトは立ち上がる。

 さぁ、と風が吹く。

 すでに夕方の匂いがする。肌寒い。

 日が沈む前に帰らなくては。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「はいっ」

「ええ、リィト様」

「──警告」

 警告。

 ……警告?

「ナビ? どういうことだ、警告って」

「敵性反応。マスター、先日の猛虎型モンスターです──周囲の魔力反応により索敵精度が低下していました、申し訳ございません……奇襲です」

 ナビの声が終わるか終わらないか。

 そのとき、低いうなり声が地面を震わせた。
『GYAAAAAAA!』

 トーゲン村を襲撃し、花人族たちのマタタビ酒で撃退された猛虎型モンスター。

「二人とも、下がって──」

 リィトは、魔力を集中させる。

 ベンリ草の種子を発芽させていたら、間に合わない。周囲にある植物の力を借りることにした。

 リィトの魔力を吸い込んだ下草が、爆発するように巨大な背丈に成長する。

 トゲトゲと固い草が目を引っ掻いたらしく、ヌシが驚いて少し怯んだ。

 その隙を見て、リィトたちは大きく撤退する。

「マタタビ酒はあるか、フラウ!」

「ご、ごめんなさいっ。持ってないです」

「問題ない。あの虎には悪いけど、少々手荒なまねをしないと」

「だ、だめですっ!」

「え?」

「あのヌシは、フラウたちと生きてきたお山のヌシだから、傷つけたり、やっつけたりしたら……っ!」

「でも、」

 リィトは困り果てる。

 たしかに、あの猛虎型モンスターと共生関係にあったおかげでフラウたち花人族たちは、ここの東の山で生きてこられたのかもしれない。

 けれど、今は命の危機だ。

 どう見ても、ヌシと呼ばれた猛虎型モンスターは興奮して怒り狂っている。

 戦わねば、食われる。

 今は、そういう状況だ。

 しかも、肝心のマタタビ酒もないのだから。

「フラウ、ダメだ……やっぱりここは」