「あはは……僕、そんなに帝都から来たように見えます?」

「だって、マントに帝国の紋章があるわよ」

「げっ!」

 気付いていなかった。

 思えば、持ち物のほとんどが帝国から支給されたものだ。

 明日、目的の場所(・・・・・)に行くついでに、装備も新調しよう。幸い、今まで溜め込んだ給与のおかげで懐には多少の余裕がある。

 持っている硬貨はどれも帝国通貨だったので、ギルド自治区内で使えるように残りの財産はギルド自治区内で使えるガルトランド通貨に換金した。

 ほとんど価値は目減りしていないか、少し得をしたかという換金レートだった。よかったよかった。

 まぁ、目的のための資金は残しておかなくちゃだけれどね。

(……そういえば)

 ふと気になって、リィトは女将に訊ねてみた。

 帝国であれば、絶対に持ち出さなかった話題だ。

「あの、お姉さん」

「はいはい、何かしら」

「えぇっと、リカルトって名前に聞き覚えはありますか? リィト・リカルト……」

「……んー、ごめんなさいねぇ」

 女将は申し訳なさそうに、眉毛をハの字にした。

「聞いたことない、ですか?」

「ええ。商売柄、色々なお話は聞くほうですけどねぇ。お知り合いなの? それとも、帝都で有名な方?」

「いえ、違います……僕の名前です」

 冗談めかしてリィトが言うと、女将がぷふっと可愛らしく吹き出した。

「ふふ、あはは! 面白い人ねぇ、若いのに!」

「いやぁ、そんな」

「帝国人で私たちが知ってる人っていったら、皇帝とか将軍……それから、えーっと、あの人ね。『侵略の英雄』でしたっけ。すごく強い魔導師さん」

「……なるほど」

 冷や汗がぶしゃっと吹き出た。

 侵略の英雄、はさすがに知っているか。気をつけないといけない。

「すみません、変なことを聞いて」

「いいえー。そういえば聞いた? 街道を塞いでた巨木の話。あれ、帝都に行く人たちが困ってたんですけど、なんと帝都の魔術師さんがたった一人で撤去してくれたんだって!」

「へ、へぇ?」

「すごいわよねぇ、どんな屈強でマッチョな人なのかしら……」

 うっとりとする女将さん。なるほど、マッチョがお好き。

 そんな噂全然知らなかったです、と笑顔で話題を変えておく。

 あのメルって子、口が軽いにも程があるだろ。