今までほとんど、雨らしい雨が降っていないことが、いい加減気になってきた。

 多少の小雨は降っても、畑はちっとも潤わなかった。

***


 死ぬ。ぜったい死ぬ。

 リィトはぜぇぜぇと息を弾ませながら、前を歩くフラウとアデルの後ろを必死についていく。

 東の山に足を踏み入れたのは、花人族の集落を助けたときと、何回か薪集めを手伝ったときくらい。

 今回歩く道は、そのときとは比べものにならないくらいに野性味あふれる山道だった。

「は、はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか、リィト様~?」

「だ、大丈夫、です」

「フラウのおやつの春ベリー、食べますか? 元気でます」

「ぜ、ぜぇ、ありがとう……食欲はないかな……」

 ちょうど腰掛けられそうな倒木があったので、少し休憩をとることになった。小まめな休憩が山歩きには欠かせない。

 水筒の水をごくごくと飲み干し、ふぅ、と人心地つく。

 植物魔導への突出した才能以外は、リィトは本当に普通の人間だ。

 しかも、インドア派。

 山道を歩けば、当然息が切れる。

 白い第十五騎士団名誉団長の装いを少しも汚さず、余裕綽々で歩いているアデル……については、いいだろう。もともと彼女はフィジカルエリートだ。

 予想外なのは、いつもの辞書を両手に抱えたままのフラウも、さくさくと山道を進んでいくことだった。

(ふぅ……きっつ……。でも、これで仮説が立ったなぁ)

 花人族が畑仕事に精を出し、様々な植物を愛でて育てたがる理由だ。彼らはどうやら、周囲に植物があればあるほど、身体能力や生命力が底上げされているようだ。

 その昔、花人族が東の山に逃げ込んで、そのままこの場所を離れられなかった理由もそれだろう。

 植物がないと、極端にパフォーマンスが落ちてしまうのだ。

 となれば、カラカラに乾いた荒野を突っ切って別の土地に移動するというのは難しい。

「……だとすると、水不足には理由がありそうだよなぁ」

 もともと、花人族はこのトーゲン村の周辺で暮らしていたらしい。

 ならばほぼ間違いなく、平野部分も緑に溢れていた、ということになるだろう。それなのに、今はこの有様だ。

 昔から同じ気候や降水量だったとは考えられない。

 気候や天候だけではない。

 そもそも、花人族が栄えるためには水場が必要だったはず。