アデルは目がギンギンに据わっている。

 フィジカルエリート特有の、徹夜ハイだ。

「問題ないわ、行きましょう」

 つまり、問題大ありということだ。

 こういう無理がたたると、過労死する。

「……こほん、アデル?」

「はい、リィト様!」

「これ、プレゼント」

「え、はい? は、花束ですか!?」

 リィトは腰に下げたポシェットから、いくつか花の種子を取り出して成長させる。美しく咲いた花を、ベンリ草の蔓で束ねてブーケにする。

 受け取ったアデルは、その花の匂いを嗅いだ瞬間に。

「……くぅ」

 がくん、と眠りに落ちてしまった。

「アデルさん!?」

「フラウ、心配ないよ。ベンリ草に、催眠作用のある花をつけさせたんだ。花束に紛れているから気づかなかったみたい」

「そうなのですか……」

「かなり疲れている人じゃないと反応しないくらいに、弱い成分だったんだけどね」

 リィトが肩をすくめる。

 見た目よりもずっしりと重いアデルをおぶって、客間にしている小屋へと連れて行く。

 寝室から先のことは、ナビに任せることにした。

「報告。アデルはよく寝ています。明日の朝までは目覚めないかと」

「そうか。ありがとう、ナビ」

「リィト様が疲労回復効果のみこめる成分を花束に混ぜていらっしゃるので、体調は心配ないはずです」

「何よりだよ。アデルは無理しがちだから」

 アデルは昔から、猪突猛進の努力家だ。

 彼女にとっては、のんびり暮らしたいリィトの望みはわからないのかもしれない。

 ぐっすり眠り続けたアデルは、翌朝の昼過ぎに起きてきた。

 眠り込んでしまったことを本人はとても恥ずかしがっていたが、花人族たちはアデルを心から歓迎していた。

 リィトとしても、アデルのまとめてくれた資料に目を通すことができたので助かる。ほとんどは、マンマが仕入れてきた情報と同じようなことが書いてあったけれど、やはり帝国にしか伝わっていない情報があった。

 軽い昼食を終えて、リィトは出かける支度をした。

「アデル、沢まで案内してくれる?」

「は、はい! もちろんです」

「フラウもいっしょにいきます!」

 夕方に到着する予定の猫人族ズが来る前に、沢を見に行くことにしたのだ。

 トーゲン村にやってきて、何ヶ月か経った。