「……よし、じゃあ午後は散歩に行こうか」

「おさんぽ!」

「うん、例の場所ってところに案内してくれないかな」

「え、でも……アデルさんが……」

「ああ、そのことだけど」

 リィトはトーゲン村とギルド自治区を繋ぐ道へと目をこらす。

 そろそろのはずだ。

 北に開けた地平線、その向こうに煌びやかな竜車が土煙を上げて走ってくる。鞍上にいるのは、麗しい女騎士。

「リィト様ァ~~~~ッ!」

「アデルさん!」

「今から向かう、って伝書ふくろうを飛ばしてきたんだよ」

 伝書ふくろうは、人間の魔力を探知して手紙を運ぶ使い魔だ。とても貴重な存在なので、帝国では上級貴族と皇族しか使うことが許されていない。

 ギルド自治区での普及状況は知らないけれど、郵便ギルドが大きな勢力をもっているようだから、少なくとも一般に伝書ふくろうが普及していることはないのだろう。

「リィト様、アデリア・ル・ロマンシアが参りましたっ!」

「やあ、昨日の晩にふくろうが着いたから、もう少し時間がかかるかと」

「徹夜で竜車を走らせてまいりました!」

 帝都からトーゲン村は、特急竜車を使っても一週間はかかりそうなもの。

 手紙の署名の日時から考えると、本当に不眠不休でやってきたらしい。

「こちらが、世界樹についての資料です」

「こんなに……」

 アデルから手渡された資料は、リィトが両手で持たないと取り落としそうな紙の束だった。アデルは片手で軽々と持ち上げていたが、両手で抱えてもなおずっしりと持ち重りがする。

 本当にこの皇女様は、力持ちだ。

 リィトはしみじみと感心した。

「ありがとう、今夜にでもゆっくり目を通すよ」

「おや、お忙しいのですか?」

「ああ、この間アデルが見つけたっていう沢に行こうかと思ったんだけど、少し休んで明日にするかい?」

 さすがに、不眠不休でやってきた姫君に無理をさせることはできない。

「まさか、すぐに参りましょう」

「えー、大丈夫なのか?」

「フラウも心配ですっ! いっぱい寝ないと、枯れちゃいますよ」

 フラウが心底心配そうにしている。

 花人族たちは、基本的には植物と同じようなライフサイクルらしい。日が昇ると起き出して、日没と同時に眠る。それを怠ると、頭から生えている花が萎れて枯れてしまう。