「ありがとう、フラウ」

 季節は春から夏へと移り変わりつつある。

 何年もかかる畑仕事を植物魔導で軌道に乗せて、商売も順調──だからこそ、この植え付けはドキドキする。

 未知の植物は植え付け時期を決めるのだって、手探りだ。

 色々と考えて、葉の特徴や、育ち具合から判断した。

 発芽からかなり生長が早かったことから、一般的な樹木ではなく魔力を糧にして育つことができる『魔樹』の類いだろう。

 魔樹であれば、何かあったときにもリィトの魔力を分け与えることで持ちこたえられる可能性が高い。

 その目算も、この春に植え付けをするという決断に繋がった。

 ざくざくと深く大きく土を耕していく。

 ベンリ草で作った地下水汲み上げ式の水道の近くに場所を決めた。

 少し離れたところにある岩のおかげで、まだ幼い苗が一日中日差しに晒されることがない。

 それに大きく樹木が育てば、リィトの小屋をその木陰にいれてくれるだろう。

 トーゲン村のほぼ中心地。

 どこからでも、遠くからでも。その樹影を見ることができるだろう。

 いつかやってくる、そんな光景を想像して、リィトは大きく深呼吸をした。

「よし、やろうか!」

 作業は順調。

 太陽が昇りきるかきらないかのうちに、謎の苗Xはトーゲン村の大地に植えられた。

「よし、と」

 畑の方も順調だ。

 ベリー類の収穫に花人族たちが手慣れてきたおかげで、リィトの監督が必要なこともない。

 これから暑くなる季節に向けて、リィトがやってみたい作付けはほとんど終わっている。

 上大陸とは気候も季節の巡りも違うゆえに、今年はベリー類と芋や、ブドウやリンゴなどのフルーツに注力するつもりだ。

 いつかは麦、そして前世は元気な現代日本人だったリィトにとって、懐かしく恋しい愛しの米にもチャレンジしたい。

 だが、お楽しみは先々にとっておこう。

「今日の夕方にミーアたちが来る予定だから、出荷の準備を──」

「フラウたちが準備バッチリにしました!」

「なんと。さすがだね」

「うふふ、アリガトー」

「うん、ありがとう」

 アデルのおかげで、薪を拾いに東の山に行く必要もなくなった。

 手持ち無沙汰で村にいると、ずっと苗の心配をしていることになりそうだ。それは少々、つまらない気がする。