「明日にはここを発とうと思います」

「そうか……また来てくれるだろう」

「ええ、リィト様を説得するために」

「えー、まだ諦めてくれないのか」

「当然です。英雄の不在は、誰がなんといおうと帝国の損失ですから!」

「うーん……本当に、買いかぶりすぎだと思うんだけど」

「フラウは、アデルさんがまた遊びにきてくださるのを待っています!」

 純真無垢なフラウの言葉に、アデルが微笑む。

 この数日の滞在期間に、ずいぶんと仲がよくなった様子。

 こないだの戦争のときには、いつも張り詰めた表情であったアデルが年下の女の子と穏やかに話している様子は微笑ましい。

「ええ、私も楽しみにしているわね──また、例の場所で遊びましょう、フラウ」

「例の場所?」

 荒野と山しかない土地だけれど、例の場所なんてあっただろうか。

「はい、倒木に隠れていたのですが、小さな沢のようなものが」

「沢! 沢って、水のある!?」

「水がない沢などあります?」

「すごいぞ、これで地下水に頼らず農業用水が──」

 何故かほとんど雨の降らない土地である。雨が降ったとしても、水はけのよすぎる土地だから保水できるかは不明だが。

「残念ながら、本当に小さな沢ですよ……ロマンシアの城にある、手水桶みたいなものです。水たまりかと思ったほどで」

「そ、そうか……なんだ……」

「ただ、不思議なものを見つけました」

「ん?」

「何かの紋様のような」

「はいっ、花人族の紋章でも、人族の言葉でもないです!」

「フラウも見たことがない紋様か。今度、見に行ってみよう」

「ええ、リィト様でしたら何かおわかりになるかも」

「だから、買いかぶりすぎだよ」

 だが、土地に関する新しい発見はありがたい。

 今度、フラウに案内してもらおう。できればアデルも一緒がいいけれど。

「そうだ、アデル」

「はい……?」

 リィトはアデルに、一つの提案をした。

 彼女がトーゲン村に帰ってきやすいように、そして、リィトにも利があるように。

「君に頼みたいことがあるんだ」