「……わかりました」

 アデルが頷く。

 この数日、本当に色々と考えてくれたみたいだ。

「よかったら、いつでもトーゲン村においで。フラウたちも、アデルのことを尊敬してるみたいだし」

「そ、そうでしょうか」

「うん。あと、このチキン料理……また、作ってくれるかい。チキンスープとか」

「えっ!!」

 アデルが真っ赤になった。

 はわ、はわわ……と震えている。

「あの、その、スープを毎日作ってほしいというのは、庶民の間では、その、その……」

「あっ」

 しまった。

 リィトは戦慄した。

 味噌汁を毎朝作ってくれとか、そういう時代錯誤なアレではないのだ。断じて! というか、異世界でも同じような言い回しなんだなぁ、と転生してから十数年、ちょっと感心してしまった。

「ごめん、アデル! なんかセクハラっぽい言動だったら許してくれ!」

「はら……? それは存じませんが、その、即座にお答えはできないといいますか」

「うんうん、さっきのはナシで頼みます! 皇女殿下に不敬を働いたとかで、軍事制裁とか受けたら困るしね!」

「道ならぬ恋というやつですね……!」

 完全に乙女心が沸騰しているアデルと、焦るリィト。それをじっと眺めていたナビと、頭の上にハテナマークを飛ばしているフラウ。

 ナビが、人工精霊(タルパ)のわりには人間くさい、大きな溜息をついた。

「まったく。マスターは本当に、アレですね」

 今回の「アレ」には、人たらしとかそういう文言が入るのではあるが、ナビの言葉を拾うものはいなかった。比較的察しのいい猫人族ズが、朝一番で自治区に帰ってしまっているのが悔やまれたのだった。


 アデルがやっと落ち着いて、食後のお茶を飲んでいるとき。

「本当に、ここはいいところです」

 しみじみと呟いた。

「そろそろ、帝都に帰らねばならないのが惜しいくらいです」

「アデルさん、帰ってしまうのですか」

「ええ。帝国人のギルド自治区への滞在は、帝国市民権を放棄していないかぎりは最大でも十日間と決められています」

「リィトさんは?」

「僕は市民権を放棄したから問題ないよ」

「そんなあっさり……まぁ、そこがリィト様のいいところではありますが」

 アデルが眉をひそめる。

 くっとお茶を飲み干して、一息つくとアデルは改めて話を切り出した。