◆
「ぷっはぁ~っ!」
うまい、ビールうまい。
渇いた喉を潤す炭酸、芳醇な香り。
しかも、どうやらギルド自治区ではビールを冷やして飲む習慣があるようだった。いや、最高かよ!
帝都にもビールはあったが、常温で飲む習慣だった。
というか、モンスターとの戦いが続く日々だったし、そもそもリィトは残念ながら神童だった。
そう、未成年。帝都では成人するまでは飲酒が禁じられていたのだ。常温のビールなので、隠れて飲む気にもならなかったし。
念のため確認したところ、今のリィトはギルド自治区ではバッチリ飲酒可能年齢だそうだ。よきかな。
「いい飲みっぷりねぇ。はい、おつまみサービス」
カウンター席でニコニコとビールを楽しんでいると、女将らしき人が注文していないおつまみを出してくれた。チーズと漬物だ。いぶりがっこチーズ的なものだろうか。
一口食べて、リィトはうぐっと目をつぶる。
(ビールはちょっとは冷えてるけど、食べ物は相変わらずかぁ)
めちゃくちゃ煙臭かった。
燻製どころではない。火事で焼け出されたのかってほどだ。
しかも、漬物自体の塩っ気がすさまじい。ただの保存食、だ。
塩気のないマッシュポテトみたいなものを主食にしていた帝国よりはマシだけれど、チーズもなんだか味が薄かった。まぁ、転生前の現代日本、すなわち飽食の時代と比べたらダメだけれども。
(でも、ここで変な顔したらダメだよな……)
これでも、気をつかう方なのだ。
むしろ、気をつかいすぎるくらいの性格だから、英雄扱いも宮廷生活もいまいちしっくりこなくて、疲れてばかりだったのだ。
「う、うまい! うまい!」
と、一応言っておいた。
おかみさんはニッコリと笑う。
「そりゃよかった!」
出されたものは、「うまい!」と食べる。これ、人付き合いの秘訣である。
それにしても、なかなか繁盛している店だ。
人族以外にも色々な種族の姿が見える。酒とつまみのレベルを考えれば頷けるし、女将の人柄も人気の秘訣のだろうとリィトは納得した。
「ありがとうございます」
「帝国からの旅人さんなんて珍しいからねぇ。上大陸の帝国とは長らく国交を断絶してるから。帝国を追い出された荒くれ者でもない、こんな美形の旅人さんが来たら、サービスしないとねぇ」