突然の言葉にあかねが何も反応を返せないで居ると、ふわっと、窓のカーテンが揺れた。一瞬隠れた玲人の顔は、カーテンが落ち着くとまた夕陽の中にあらわになる。この視界(ウインドウ)の切り替えは覚えがある。ライブ会場のスイッチャーの切り替えひとつで、見ているタブレットに映る画面が変化する、あれだ。

現実が過去の現実に彩られて、玲人の目の前の姿がぶれる。玲人があかねの瞳を見つめているというのに、あかねはどこか、画面の向こうの出来事のように受け取った。

玲人の整いすぎている顔がそう思わせるのかもしれない。夕陽の差し込む陰影の濃い場所というのも、ライブ会場を思わせた。それだけで自分の気持ちがはっきりとわかる。

(私……、玲人くんの事……)

「……駄目、かな?」

駄目? なんていう言葉を使う癖に、玲人は全然断られるなんて思ってないみたいだった。あかねは思いのたけを籠めて、玲人に伝えた。

「れ……、玲人くんはやっぱり私の『最推し』のままなの!! 『推し』に、私たちファンが出来ることは一つだけ。『推し』の生きざまを陰から見守り、その尊さにむせび泣く事だけなの!! だから『推し』との恋愛なんてありえないの!! 玲人くんはいくらでもモテるから、彼女候補は選びようがあるんじゃないかな!?」

玲人はあかねの言葉に少し驚いたような顔をして、……それからふふっと笑った。

「参ったな、一発でOKしてもらえると思ったのに。仮にもファンだった子に振られるって、どうよ、僕」

面白そうに笑っている玲人にこれだけは弁解しておかなければならない。

「れ、玲人くんに魅力がないって言う訳じゃないから!! むしろ、魅力満載過ぎて尊すぎるから!! って言うか、この前まで画面の前で拝んでた相手にいきなり『付き合おう』なんて言われると思わないじゃない!?」
「そこまで思ってくれてたなら、普通は振らないでしょ」
「えええ!? 次元が違うし!!」
「次元ってなんだよ。今此処にいるじゃん」

そう言って玲人はあかねの手を握った。ボン! と顔から熱を吹いて、あかねの体から発熱した。

「わーーーーーーー!!!! 無理無理無理無理――――――――!!!! 握手会でもないのに!!!!」
「握手会って何。傷付くなあ」
「他を当たってください!!」

ブンと腕を振れば、玲人の手はあっけなく外れた。夕陽の色で頬の赤が分からないあかねに、玲人はにこりと微笑みかけた。

「悪いけど、他を当たる気はないんだ。『普通の高校生』らしく、狙った子を落とすまであきらめないから」

なにこれサービスイベント!?!?!?
そんな風に混乱するあかねに玲人は畳みかけた。

「言っとくけど、僕、諦め悪いからね」

芸能界も自分の意思で入った。『FTF』のメンバーから残留を求められても諦めなかった。自分の人生は自分で選びたい。そうして選んだ高校であかねに会った玲人は、文字通り諦めない人だった。

「無理だからーーーーーーー!!!!」

泣き叫んで教室から出ていくあかねを、玲人が面白そうに見送った。まだまだ波乱の高校生活は始まったばっかりだった。