熱い、寒い、苦しい。
 香夜は熱に浮かされながら、何とかその苦しみに耐えていた。
 用意してもらった薬は飲んだ。あとは額を冷やしつつ熱が下がる様寝ているしかない。
(あれ? でも薬は誰が用意してくれたのだっけ? 額の手拭いも――っ)
 ふと疑問に思ったことを考えるが、頭痛に追いやられ思考は途絶えた。
 そのまま意識がはっきりしない状態で寝込んでいると、部屋に誰かが入って来る気配がした。
 その人は額の手拭いを替えると、優しく頭を撫でてくれる。
(誰だろう?)
 自分にそんな優しく接してくれる人などこの里にいただろうか?
 倒れる直前に見た燦人の優しい微笑みを思い浮かべるが、彼であるはずがない。
 大体にしてあれは夢か幻としか思えないのだ。……それに、撫でた手は女性のものだった。
(本当に、誰だろう?)
 思うが、頭痛で瞼が開けられない。その姿を見ることが叶わない。
 自分に優しくしてくれる女性などいただろうか?
(ああ、でも……)
 もっと小さい、両親が亡くなってすぐの頃。
 夜泣き疲れて眠る自分を撫でてくれた人がいた気がする。
 この手は、その人と同じような気がした……。