梅雨の前に真夏の日差しだけやって来たような、よく晴れた6月最初の日曜日。
 雲ひとつない空に反して、私の気分は重く沈んでいた。今日は駅前の塾で、大学受験の模擬試験を受けることになっていたからだ。

「行きたくないのにな、大学……」

 田舎町だからどうしても、志望校進学しようとすれば寮生活になる。母の思い出いっぱいの、桜ノ端市から離れたくない。
 正直なところ大学に行くことは全く考えていなかった。看護師を目指しているけれど、家から通学できる範囲の専門学校志望だったからだ。
 けれど、父は絶対大学進学をさせようとしてくる。
 模擬に行きたくないといった私にも、父は「絶対受けなさい」と譲らなかった。

 やる気のないまま模擬試験を受けたのちの昼下がり。
 私は気晴らしに自転車でそのまま神様のところまで向かうことにした。
 自転車を漕いでいると改めて、駅前の景色の変貌に驚かされる。私の知っている、田んぼと山しかない駅前なんかじゃない。

「田んぼが全然ない……それに、工事現場もたくさん」

 見慣れた建物が次々に消え、無かったものが増え、道幅も代わって。
 だんだん街が、私の知らない街に変わっている。
 駅名だってそうだ。桜ノ端駅という名前は今年までなので、駅では来年から変わる新しい駅名が大きく駅に張り出され、駅ビルも知らない間に増築されていた。
 自転車置き場一つをとっても、新品でピカピカ。
 一応書いてある「桜ノ端駅前駐輪場」の文字は、後で剥がせるようにシールになっている。
 普段は学校と家と裏山の範囲で生活をしていたから、こんなに変わってるなんて気づかなかった。

「来年、すぐにきちゃいそうで嫌だな……」

 来年の話をすると鬼が笑うというけれど。
 ここまで「来年」を突きつけられると、母との思い出を、鬼が笑いながら消して回っているような嫌な気分になる。
 ガハハ、諦めろ。お前の思い出なんて、母のことなんて消えていくんだーーなんて。

 気が重い感じで神様のところに向かうと、神様はふわふわと空に浮かんでいた。

「本当に力が戻ってきてるんだね……」
「そんなお前は元気がなさそうだな、どうした?」
「当ててみてよ、神様」
「神様だけど、わかんないこともある」
「模擬試験受けてきたの。……お父さんに、来年大学いけって言われた」

 大学進学。それは桜ノ端市民にとって「一人暮らし」や「寮生活」と同義だ。

「……私、怖いんだ。この街を離れると……なんだか……お母さんの思い出が消えちゃいそうで」