それから私は晴れの日は毎日、彼氏になった神様に会いに行った。
 あと僅かで卒業する制服を纏って、お弁当を作って。お父さんに借りたタブレットで一緒に動画なんて見たりして。

「大学見学してきたよ。寮も今年からできるからピカピカだった!」
「動画まで撮ってきたのかよ」
「神様、桜ノ端の外は神通力で見られないんでしょ? 見て欲しかったの」

「うっま。遥花お前、料理上手かったんだな」
「へへ。お母さんがいる時から、一緒に台所に立つのが好きだったんだ。だから調理師になることも考えたんだけど、お母さんの家庭料理のクセを、できるだけ消したくなくて看護師志望に変えたんだ」
「そうか。台所に立つたびに、そこにお母さんがいるんだな」

「神様、本当に他の女の子と付き合ったことないの?」
「本当だって。あんまり言わせるなよ」
「本当に本当? ……別に、元カノに嫉妬したりしないよ?」
「どうしてそう思うんだよ」
「だって神様、綺麗だしかっこいいし、なんだかすごく女慣れしてそうだし。それに、……………、」
「……慣れてる男だったら、もっと上手くキスできると思うけど?」

 私たちは本当に、ごく普通の恋人同士のように過ごした。
 その間にもどんどん地域の至る所に新しい市の名前が書かれ、田んぼだらけだった道はあっという間に区画整理されて、真新しいアスファルトの道やマンションで作り替えられていった。
 住み慣れた家からも少しずつ荷物が減っていき、2月末には生活必需品以外の荷物は全部、梱包するなり新しい住まいに送るなりで片付いた。
 スッキリした棚の上に飾られた、お母さんの笑顔はどこかさっぱりして見えた。

「遥花、今日も友達に会いに行くのか?」

 朝家を出ようとした時、休日の父に玄関先で呼び止められてドキッとする。今日も勿論、神様に会いに行くつもりだったから。

「えっと、あー、うん」

 普通に遊びに行くと言えばいいのに、なんだか言葉を濁してしまう。彼氏がいることがバレちゃう。
 内心どきどきする私に、父は意外な言葉をかけてくれた。

「なるべく友達とは会って、遊んでおきなさい。今、遥花にとっては……この桜ノ端で過ごしてきた人生の節目なのだから」
「お父さん……」
「ただし、夕飯には間に合うように早く帰ってきなさい。くれぐれも、悔いが残らないようにね」
「勿論。お父さんの夕飯を作るのだって大切な思い出の時間だから」

 私は父に見送られて家を出る。

「お父さん、なんとなく、彼氏できてるの気付いてる気がするよね……」

 けれどまさか、彼氏が裏山の神様で、しかももうすぐ消えてしまうなんてことまでは知らないだろう。
 私は歩きながら、路地が以前よりずっと広くなったように感じた。

「あ……そっか。空き地が増えてるから」

 近所の家も立退きの影響で、次々と空き地になっている。
 去年の春にシチューの匂いがした家も、今は地域猫があくびをしてヘソ天で寝そべっている。
 きっとこの光景も、今だけの景色で。ーー毎日毎日が、最後の瞬間に溢れているんだ。