私は神様に手を引かれて歩いていく。
 まるで恋人みたいだな、なんて思うと恥ずかしくて、顔がうまくみられなくなる。細くて綺麗なお兄さんなのに、私と繋いだ手は大きくて、着物になると、いつもよりずっと背中が大きく見える。

「射的やるか?」
「何が当たるの?」
「さあ、俺も知らない」

 ひょっとこお面のおじさんから銃を受け取り、私は金ピカの招き猫を狙う。
 当たると何故か、金平糖がぱちん、ぱちん、と辺りに散る。
 神様が撃つと猫は生きた猫に変わり、にゃあ、と言って祭りの夜を駆けていく。
 なんでもありの、夢の中。

「次は飴細工食べたいな。すごく綺麗」

 私はずっと神様と手を繋いでいた。夢の中なのに、大きな手の体温を感じる。
 時折私をみて目を細める神様の視線に、胸の奥がぎゅっと痛くなる。
 あちこちで遊んで笑って、気がつけば私たちは裏山の上、神社の境内まで登っていた。

 金魚を入れた袋の口を開くと、出目金が二匹、ふよふよと空へと泳いでいく。
 その尾鰭の美しさに見惚れて見上げていると、隣で私を見ている神様と目が合った。

 しん、と空気が静まりかえった。
 祭りの音が遠くなる。

 祭りの光を反射した、神様の瞳は色んな輝きが混じった不思議な色をしていた。
 神様は、私をみて微笑んだ。

「夢から醒めたくないな……」
「冷めるから夢だろ? どんなに幸福でも、夢は夢だ。……楽しかったよ、遥花。」

 神様は笑っているけれど、どこか寂しそうな目で眼下の夜景を見下ろしている。

「またこうして、祈ってくれる誰かと一緒に祭りを楽しめてよかった」
「神様……」
「こういう事ができるまで神通力が回復したのも、遥花が俺に祈って、俺を神様だと慕ってくれるからだ。神は祈られない限り、消えるしかない存在だから」
「……そんな。私がしたことなんて、泣きながら頼ったことだけだよ」
「頼られるから、ここにいられる。……俺はもう、誰からも忘れられて、神通力も失って、このまま消えるのを待つだけの神生ばかりだと思ってた。けれど遥花がいてくれたから……俺は、」

 神様がこのまま消えてしまいそうな気がして、私は咄嗟に両手を掴んだ。
 淡く輝く瞳が見開く。

「遥花、」
「神様のことはずっと私が覚えてる。だから大丈夫。また来年も一緒に祭りに行こう」
「優しいな、お前は」

 神様は笑う。そして私の言葉に対しては返事を返さず、そっと頭を撫でてくる。

「……神様、」

 そのまま顔が近づいてきて、思わず目をキュッと閉じる。

 キス、されるかも。

 けれど何も起こらないままーー神様の体が、離れていく気配がした。

「朝がきた。じゃあな、遥花……また、あの神社で」

 世界が白んで行く。
 夢を切り裂くように朝のアラームが、私の耳元で鳴り響いた。