気付けば止めていた呼吸。
 整えるように息を吸い込んだ。

「事故に遭ったのは、柚子さんといた帰り?」
「そう。柚子の家にいたんだって」

 柚子さんの家にいて、何をしていたのか。
 まだ、好きだったのか。

 嫌な想像をして、もう今更だとわかっているのに胸が苦しくなる。

「兄貴はバチが当たったんだよ。だから死んだ」

 歯に衣着せぬ発言に、私はぎこちない笑みを浮かべた。

「そんな言い方、ダメだよ」
「でも、俺にはそう感じた。だから、彩花さんはもう、兄貴を忘れても許されるよ」

 優しい眼差しで私を見つめる光樹君の言葉が、胸の奥深くまで入り込む。

 春明に、柚子さんへの恋慕があったのかどうかはわからない。
 それでも、私ではなく柚子さんを選んだのは紛れもない事実なのだろう。

 光樹君が嘘をついている可能性もなくはないが、彼の目には春明に対する嫌悪が滲んでいる。

 バチが当たったと言ったくらいだ。
 ずっと怒っていたのかもしれない。

 春明が私ではなく柚子さんのところへ向かい、亡くなってしまったのを。

「教えてくれてありがとう」
「気持ちの整理はつきそう?」
「すぐには無理かも。知って良かったのかもまだわからないし」
「そっか。ごめん……余計なことしたかも」

 落ち込んで肩を落とした光樹君に、私は「そんなことないよ」と微笑んだ。
 春明だと勘違いして、知りたいと願い、縋ったのは私だ。

 酔っていたからこそ溢れた本音を、四年経っても春明に縛られたままの私を、光樹君は助けようとしてくれたのだろう。
 そのことが、純粋に嬉しい。

「また少し、前に進めるかもしれないから」

 そう伝えると、光樹君は「応援してる」と微笑み返してくれた。