「昨日、泣きながらどうしてって言ってたじゃん。知りたい?」

 四年前のあの日、どうして急に行けなくなったのか。

 知らなくてもいいことかもしれない。
 だって今更だ。
 知っても春明が戻ってくるわけでもないし、何より、知れば苦しむかもしれない。

 光樹君の真剣な表情が、知るべきではないと警鐘を鳴らしている気がする。
 でも、ずっと引っかかっていたのだ。
 デートよりも優先する用事がなんだったのか。

「……知りたい。教えて」

 聞いてしまえば後悔するとしても。

 光樹君は「わかった」と頷いて参道の先にある階段を上り、私を人気のない境内へと連れて行った。

 喧騒から少し離れた境内。
 ふたりで本殿脇の石段に寄りかかり、時折参拝客がやってくるのをなんとなく目にしていると、光樹君が口を開く。

「兄貴はあの日、彩花さんじゃなくて柚子(ゆず)を選んだ」
「柚子さんって、幼馴染の?」
「そう、兄貴の初恋相手の柚子」

 初恋相手と聞いて、私は目を丸くした。

 柚子さんとは会ったことはないが、春明がよく名前を口にしていた。
 幼稚園の頃からの幼馴染で、いつも春明を振り回すお転婆な子。
 苦笑して話す春明はなんだかんだ放っておけないようで、嫉妬したこともあった。

「あの日、柚子が急にうちに来たんだ。彼氏とうまくいってないとかなんとかで、気晴らしに付き合ってくれって言われてた。で、彩花さんに断りの連絡を入れてた」

 語られた真実に、私は何も言葉を返せない。
 春明は彼女の私とのデートではなく、柚子さんを慰めることを優先した。