他愛ない話をしながら楽しむ夏祭り。
 笑みを浮かべた光樹君を見て、一瞬だけ、叶わなかったあの日をやり直しているみたいだと感じてしまった。
 泣きそうになるのを誤魔化すように、購入したたこ焼きを頬張る。

「んーっ、かつお節たっぷりにして良かったかも」
「そう? なんかモソモソしてそう」
「そんなことないよ。美味しいよ」
「ふはっ、めっちゃ幸せそうな顔してんね」

 笑われるも、私は「幸せですから」と答えた。

 食べることは好きなのだ。
 美味しいものを食べると、幸福感で満たされる気がするから。

 春明が亡くなって数カ月はそんな気持ちにはなれなかったけれど、今はこうして美味しいものを素直に美味しいと感じられる。
 ひとまず普通に日常生活を送れる程度には、心の傷も癒えたということだ。

 簡素な木製の椅子に腰かけて、ふたつ目のたこ焼きを味わう。

「彩花さん、たこ焼き食い終わったらあれ、チャレンジしていい?」
「射的?」
「そ。毎年どこの祭りでもあれだけはやってんだ。欲しいものある?」

 尋ねられて、私は立ち上がった。
 屋台に数歩近づいて並ぶ景品を観察する。

「じゃあ、あの腕時計はいける?」
「そうきたか。お姉さん、俺を舐めるなよ?」

 腕時計は景品の中でも高額な景品だ。
 倒れにくくなっているはずだが、光樹君は自信満々といった様子でたこ焼きを完食。
 そうして、意気揚々と射的へ向かった。

 ──が、結果は。

「ぷっ、あっはっはっはっ! なにこれ!」
「豚っぽい何かだな」

 あれだけ絶対獲って帰ってくる雰囲気を醸し出していたにもかかわらず、光樹君かゲットしたのは丸い豚のような鼻が特徴的な白いぬいぐるみだ。
 目が離れているのが笑いを誘う。
 というより、私のツボにがっつりと入った。

「腕時計じゃないけど、もらってくれる?」
「もちろん。ありがとう」

 お礼を言って、また噴き出て笑う。
 そんな私につられて笑みを零した光樹君は「良かった。笑ってくれて」と眦を下げた。

「ここに来て、彩花さんの戸惑った顔見て思い出したんだ。兄貴が、彩花さんの誘い断ってたの」

 感傷に浸ってしまった私に気づいていたらしい。

「ごめん」

 申し訳なさそう苦笑した彼に、私は頭を小さく振る。

「私こそ。でも、知ってたんだね」
「その話ししてる時、兄貴と一緒にリビングにいたから」

 思い出して語った光樹君の茶色い髪を、夏の夜風が優しく揺らした。

「……なんで断ったか知りたい?」

 心臓が、ひとつ大きく跳ねる。