神社の参道を賑やかす祭囃子の音を耳に、光樹君と夜店を見て回る。
 カランコロンと下駄を鳴らして私たちを追いこす浴衣姿の女の子たち。
 その背中を見送る光樹君の視線が次に捉えたのは私だ。

「浴衣着た彩花さんが見たかったな」
「も、持ってないの。ごめんね」

 嘘だった。
 本当は一式持っている。

 一度も纏わず箪笥に眠っているそれは、春明と一緒に行くはずの夏祭りに着ていく予定だった浴衣だ。
 そう。予定だった。
 当日の夕方に電話がきて『やっぱり無理になった』とキャンセルされ、着ないままに終わったのだ。

 断られた時はショックでへこんだ。
 けれど、来年また春明とリベンジで着たら良いと前向きに考えた。
 来年の楽しみができたと眠りについて……。

 翌朝、私は春明が亡くなったという連絡を彼のお父さんからもらった。
 彼のスマホから彼ではない声で、『春明が、昨夜事故に遭ってさっき、息を引き取ったんだ』と。

 あの時はすぐに理解できなかった。
 亡くなったという言葉の意味はわかっていたけれど、春明が死んでしまったのが信じられなかったのだ。
 現実味がまるでなく、連絡をし直したら眠そうな声で春明が電話に出てくれる気がしていた。

 駆けつけた病院の霊安室で、彼の遺体を見るまでは。

 痛みを逃がすように、溜め息をそっと吐く。
 そうして気持ちを切り替えるように、参道を歩きながら光樹君を見上げた。
 背は春明よりも少し高い気がする。

「光樹君、身長何センチ?」
「五月の測定では百七十六、だった気がする」
「高いね」

 春明は百七十二センチだった。
 ささいな違いにほっとするも、どこか残念な気持ちもあった。
 複雑な気持ちを抱えて盗み見た光樹君の横顔は、やはり春明に良く似ている。

「なに?」

 私の視線を感じたのだろう。
 光樹君に気づかれてしまい、慌てて笑みを貼り付ける。

「あの、何か食べる? 夕飯食べた?」
「食べてない。たこ焼き食いたいな。あと肉」
「いいね! そのあとはかき氷食べようよ」

 明るい声で言って、たこ焼きの屋台を探す。