──ズキリ。
 ひどい頭痛に目を覚ました私は、「う」と短く呻いて額に手を当てた。

 どうやら実際に眠ってしまったらしい。
 幻覚を見たあと、家までどうやって帰ってきたか記憶にはないが、とりあえず今日はバイトがなくて良かった。

 とにかく薬を飲もうと身体を起こした時だ。

「あ、起きた」

 自分しかいないはずの部屋に男の人の声が聞こえ、私は驚き目を剥いた。
 そして、その姿を見て声を失う。

「おはよう、彩花(いろは)さん」
「……は、る、あき」

 ようやく絞り出した声で名を紡ぐ。
 しかし、目の前の彼はどこかわざとらしい溜め息を吐いた。

「まだ酒抜けてない? この制服、春明は着てた?」

 言われて見て気づく。

「違う制服だ……」

 高校時代、私達が通っていた高校の制服ではない。
 ワイシャツの胸元に校章なんて入っていなかったし、ネクタイのデザインも違う。
 髪型もショート好きの春明とは違う、長めの前下がりマッシュヘアで今時だ。

 だが、彼の顔は春明にそっくりなのだ。
 しかも周りをよく見れば私の部屋じゃない。

「こ、ここ、どこ?」
「俺の家」
「俺くんは、どちらさま?」

 春明ではないという彼は、どこの誰なのか。
 困惑しながら尋ねる私を、彼はクスクスと笑った。

篠森(しのもり)光樹(みつき)、A高の一年だよ」
「春明と同じ苗字……。あっ、もしかして弟くん⁉」
「正解」

 にっこりと微笑む光樹君に、まだ春明が生きていた頃、何度か見かけたことのある弟の姿を思い出す。

「ということは、ここって春明の家?」

 まさか迷惑をかけたのではと焦る私に、光樹君は首を横に振った。

「残念、不正解。俺、一人暮らししてるんだ。じゃなきゃ、公園で見つけた可愛いお姉さんをお持ち帰りなんてしないし」

 意味深に片眉を上げてにやついた光樹君。
 私ははっとして自分の身体を確認した。