夏の果てで、さよならを

 ──六年後。

 チャペルから出た私は、眩しい光に一瞬だけ目を細める。
 そうして一歩踏み出すと鐘が鳴り響き、次々と降る祝福のフラワーシャワーを浴びた。

 純白のウェディングドレスを纏う私の隣に立つのは、会社の同僚でもある夫だ。

 大学卒業後、今も勤めている不動産会社に入社。
 ひと月も経たない頃、別部署に所属していた夫と出会い、直後から猛烈なアプローチを受け続け、交際を決めるまでが半年。
 それから三年付き合いプロポーズされた。

 ちょっと強引なところが玉に瑕だけれど、そこが魅力でもあり、いつだって私を大切にしてくれている。
 だから、添い遂げると決めたのだ。

 何より、夫といるようになって春明のことで胸を痛めることがなくなった。
 思い出しても懐かしめるようになり、今では心穏やかだ。

「おめでとう!」
「彩花! お幸せに!」

 参列する那奈が笑顔で手を振る。
 那奈は私が夫と付き合い始めた時、心底喜んでくれた。
 きっとうまくいくよと、祝福してくれた。

「ありがとう」

 夫とふたり、手を振り返していた時だ。

 チャペルの正面、黒い柵が連なる向こう側の歩道に、懐かしい人の姿を見つけて私は目を見張った。
 胸の内で心臓が強く跳ねる。

 光樹君が、いるのだ。
 六年前の夏に別れたきりの彼が。

 光樹君に寄り添い歩く彼女らしき女性が、結婚式に気づく。
 すると、光樹君もこちらを見て……私たちの視線がぶつかった。

 彼の双眸が驚きに染まる。
 けれど、それも一瞬のこと。

 光樹君の目が、私を見つめたまま切なく笑んだ。

 あの日、さよならを告げた時のように。

 私も同じように微笑み返して……

 束の間の再会を終えるため、視線を外した。







 きっとこれからも、私たちの人生が交わることはないだろう。

 幾度も再会しようとも
 
 その度に、

 胸の内に閉じ込めた想いが疼き切なく痛んでも。

 




【Fin】