私しかいない公園で、次々と缶チューハイを飲んだ結果。

「……まわってる……ぐわんぐわんしてる……」

 どうやら酒には強くない体質らしい。

 これ、歩いて帰れるだろうか。
 タクシー呼ぶ方がいいかもしれない。
 そう思って、覚束ない手つきで黒い鞄からスマホを取り出した。

「検索……だめ、字が読みづらい」

 視点が定まらず、「あー」とやる気のない声を出した時、視界にふと誰かの足が入り込んだ。

 誰かが私の前に立っている。
 それだけを認識し、視線を上げた直後。

「……え?」

 夢か、それとも酒のせいで幻覚を見ているのか。

「こんなとこで女の人がひとりで酔っ払って、危機感なさすぎ」
「はる、あき?」

 ブラックジーンズのポケットに手を突っ込み、私を見下ろす呆れた双眸。

「なんで、だって」
「帰ろう。送ってく」

 ほら立って。

 春明が私の腕を引っ張って立ち上がらせる。
 けれど、酔った私の足はしっかり立つことができず、彼の胸へと倒れ込んでしまった。

 私の肩を支える手の温かさ。
 白いシャツ越しに添えた手のひらから伝わる彼の心音。
 トクリトクリと脈打ち、生きていることを訴えてくる。

「死んだのは、夢だった?」

 いや、そんなはずはない。
 心が千切れそうなほどの激しい胸の痛みも、世界が色をなくしたような喪失感も、枯れない涙に腫らした瞼の重さも。

「……残念だけど、夢じゃないよ」

 そう、四年前の今日、春明が事故で死んだのは事実だ。

 それなら今私を抱き止めてくれている春明はなに?
 夢じゃないなら、やっぱり幻覚なのか。

「……もう、幻覚でもいいや。この際だから、言わせて」
「なに?」
「どうしてあの日、断ったの? あんな時間までどこにいたの?」

 予定通りに私と一緒に出掛けていたら、春明はきっと生きていた。

「どうして……死んじゃったの」

 事故になんて遭わずに、今も私と一緒にいたかもしれないのに。

 四年間、ずっと心にあり続けている『もしも』がまた頭をもたげる。
 涙が零れて、春明のシャツに落ちた。

 春明は何も言わない。
 ただ、ぎこちない手つきで私を抱き締めるだけ。

 ああ、苦しい。
 まるで溺れているようにうまく呼吸ができず、嗚咽を零す。

 熱い息を吐いて、泣いて、泣き続けて。
 そうして私は、春明の腕の中で眠るように意識を手放した。