夏の果てで、さよならを

 嫌悪と恋慕に胸が締め付けられ、涙が溢れてしまう。

「なんで泣くの」
「ごめん……」
「兄貴のことが忘れられないなら、今はそれでもいいよ。いつか俺を好きになってくれるかもしれないなら……」

 縋るような光樹君の眼差しは不安に揺れ、受け入れてくれと希っている。
 けれど私は首を横に降った。

「私は、光樹君の彼女にはなれない」

 春明とは別人だってわかっている。
 でも、ふとした瞬間に重ねてしまうのだ。
 別人だと思おうとすればするほど、強く意識してしまう。

「兄貴の弟だから?」

 私は躊躇った後、頷いた。

「どんなに光樹君を好きになっても、一緒にいれば春明の存在はずっと傍にある。幸せだって心から笑うことはできないかもしれない」

 それは私だけじゃなく、多分、光樹君も同じ。
 光樹君を見つめる私の脳裏に、春明がいることがいずれ耐えられなくなる。
 互いに苦しくなるのがわかっていながら共にいても、幸せにはなれない。

「だから、ごめんなさい」

 この恋には、未来はないのだ。

「兄貴のこと、こんなにむかついたの初めてだ。なのに、やっぱり文句のひとつも言えない」

 力いっぱい私を抱き締める光樹君は、額を私の肩に押し付ける。

「本当にね」

 私たちに痛みばかり置いて逝ってしまうなんて、ひどい人だ。
 でも、春明がいた頃に幸福は確かにあった。
 今は見えないけれど、私も光樹君も、いつかは再び取り戻せると信じたい。
 この別れが間違いではなかったと、信じたい。

 ふたり、慰め合うように抱き締め合う。

 想いを心に閉じこめたまま。


 そうして私達は、別々の未来を歩むため



 夏の果てで、さよならを告げた。