夏の果てで、さよならを

「ごめん、嘘なんだ」

 夕刻、光樹君の家を訪れた私に、家主である彼は悪びれもなく微笑んでそう言った。

「忘れ物はないってこと?」
「そう、あるのは別のもの」

 上がってと部屋に案内された私は、促されるがままクッションの上に座らされる。
 ややあって、彼が冷蔵庫から持ってきた箱をテーブルに置いた。
 箱の横に綴られているアルファベットの綴りには見覚えがある。

「これって、もしかして」

 予想しながら光樹君に視線を向ける。
 すると、手に白いお皿と銀色のフォークを手にした彼が頷いた。

「この前会った時に彩花さんが話してた店のケーキ。一度食べてみたいって言ってたでしょ?」
「でも、朝から長蛇の列ができる店だよ?」

 二カ月前、隣町の駅前にできた洋菓子店。
 有名なパティシエが出店したとのことで話題になり、オープンから未だに列を成す人気店なのだが。

「うん、すごかったよ。女性客ばっかりかなと思ってたけど、結構男の人も並んでた。あ、彩花さんが一番食べたがってたピスタチオケーキも無事にゲット」

 光樹君が「見て」と箱を開くと、所狭しと箱詰めにされた色とりどりのケーキが現れた。

「ちょっとしたサプライズになった?」

 問われて、私はこくこくと頷いた。

「でも、なんで? 看病のお礼はもうしてもらったのに」
「お礼とか関係ないよ。これは俺がしたくてしてるだけ」

 ただ、私を喜ばせたい。
 そう告げるように微笑まれる。
 けれどその瞬間、私は目を反らしてしまった。

 似ていたのだ。
 包容力の滲む今の微笑み方が、春明に。