深い溜め息を吐いた私を、中学からの友人である那奈が面倒そうに見た。
「それ、何回目よ」
全面ガラス張りの窓により明るい印象のカフェは、猛烈な夏の日差しから逃れた人々を癒す如く涼しい。
「ごめん」
カフェオレを飲む那奈に「で? 何を悩んでるの?」と尋ねられ、私は一瞬ためらってから口を開いた。
「実は……気になる人が、できちゃって」
「へぇ! いいことじゃない。誰? うちの大学?」
那奈はマスカラたっぷりの睫毛に縁どられた双眸を輝かせる。
「違う。高校生」
「年下かぁ。どんな子?」
興味深々の那奈はきっと想像もしていないだろう。
私の惹かれている相手が……。
「……春明の、弟」
元カレの弟だなんて。
案の定、春明を知る那奈は、呆気に取られて口を開けている。
「マジなの?」
「困ったことに」
頷くと、テーブルの上に置いたスマホがメッセージの受信知らせた。
しかも相手は噂をすればなんとやら。
光樹君からだ。
熱で苦しむ彼の看病をした二週間前。
あれから私は、光樹君と他愛のないメッセージのやり取りを毎日している。
それだけじゃない。
二回ほど、ふたりで会った。
一度目は看病のお礼をさせてほしいと言われて食事へ。
二度目は……ひとりでの食事は寂しいかもしれないからという言い訳をつけて、私から会いに行ってしまったのだ。
そのことを那奈に正直に話し、また溜め息を吐いてしまう。
「葛藤してるの? 春明の弟だからって」
「それもあるけど……光樹君が気になってるのは確かなのに、彼と会ってるとどうしても春明がちらついちゃうの」
ちらついて、ブレーキがかかる。
無意識に春明の代わりにしているんじゃないかと、自分の気持を疑って、真っ直ぐに光樹君を見れなくなる。