優しい声に導かれ、意識が浮上する。

「彩花さん」
「ん……」

 いつの間に眠ってしまったのか。
 床に座り、ベッドにもたれかかっていた私は、窓から差し込む陽の眩しさに眉を寄せた。

「彩花さん、その体勢だと身体辛くない?」

 まだうまく目が開けられないまま上半身を起こす。
 寝ている間はあまり動かなかったのか、少しだけ身体が固まっている気がするが問題はない。

「ううん、大丈夫……。それより、熱は?」

 寝起きのはっきりとしない頭で問いかける。

「多分下がった。あっても微熱だと思う。彩花さんのおかげ」

 手をキュッと握り直された感覚に、私は驚いて目を開いた。

 そうだった。
 昨夜、手を繋いだまま眠ったのだ。

 気づいたものの、どのタイミングで手を離せばいいのかわからない。
 すると、光樹君は横になったまま「ありがとう」とはにかんだ。

「あんな風に母さんや兄貴のこと吐き出せたの、初めてなんだ。でも、聞かせてごめん」

 気を遣う光樹君に私はゆるく頭を振ってみせる。

「柚子さんについては正直少し複雑な心境だけど、聞いて後悔はしてないから。というか、こちらこそ立ち入ったこと聞いてごめんね」

 謝罪すると、今度は光樹君が首を左右に振った。

「俺、ありがとうって言ったじゃん」

 だから気にしなくていいと微笑する光樹君は、まだだるいのか、それとも眠いのか。

 瞼を閉じて、そして。

「もうちょっとだけ、傍にいてくれる?」

 まだ帰らないでほしいと強請られ困惑する。
 こういう甘え上手なところは春明とは違う。
 無意識に比べてしまい申し訳なく思いながら私は、罪滅ぼしのように小さく頷いた。