「スポーツドリンクと飲むゼリー、それからレトルトのおかゆも買っておいたよ」

 ビニール袋から取り出したそれらを、ベッドに横になっている光樹君に見せる。

 光樹君の家に到着した時、玄関で迎えてくれた彼は息も絶え絶えといった様子だった。
 私の顔を見て力なく微笑んだあと、ふらふらとベッドに潜った光樹君は「うー」と呻いて今に至る。

「ありがと……さっそくスポドリちょーだい」

 だらりと伸ばされた手にペットボトルを渡すも、力が出ないのか蓋を開けられないようだ。

「開けようか?」
「ん……ごめん」

 素直にペットボトルを差し出した彼の代わりにキャップを捻る。

「辛そうだね。熱は測った?」
「三十九度四分」
「高っ! 薬は?」
「風邪薬は飲んだ」

 あれ、と光樹君がテーブルの上を指差す。
 そこには総合風邪薬の瓶が置かれていた。
 ラベルには『風邪症状の緩和に』と書かれていて、一応熱にも効果はあるらしい。

「もし解熱剤の方が良さそうだったら買ってくるよ」

 むしろ、四十度近い熱があるなら、今すぐに買ってきた方が良さそうだ。
 しかし、光樹君は「んーん」と拒否する。

「いらない……。このまま傍にいてもらった方が下がる」
「そんなわけないでしょ」

 私より薬の方が効き目があるに決まっている。
 けれど光樹君は喉を鳴らしてスポーツドリンクを飲んでから「そんなわけあるよ」と答えた。

「だから甘えてもいいかってメッセージ送ったんだし」

 蓋を閉めたペットボトルをベッド脇の床に置き、光樹君はだるさを逃がすようにはぁと息を吐く。

「わかった。でも、少し様子見て下がらなかった解熱剤飲んでね」
「ん」

 短い返事を聞き、私は立ち上がって予備に購入したスポーツドリンクを冷やそうと冷蔵庫を開けた。