懐かしさすらある。それは、両親や教師が、僕に反省の弁を求めているときに使う種類の沈黙だった。

 モニターは意図的に消されたのだ。

 それを理解した僕は、自ら罪を告白した。
「……ねえ、確かに僕は組合に関わっていた。積極的にではないにしても、組合員として情報を聞いていた。幹部にも会って提案もした。でも悪気はなかったんだ。僕は自分たちが監視されているかどうかを確かめたかったんだよ。組合活動をして、それがあなたたちに気付かれていなければ、僕たちは監視されていないってことになるでしょう。安心したかったんだ。本当は、アルコールの制限緩和やミュージックの解放運動なんて、どうでもよかったんだよ。『監視されていない』という確信を持ちたかっただけなんだ。ほら、やっぱり監視されるのって、気分が良いものではないから」
 打算的な面はいくらかあったものの、その言葉は紛れもなく僕の本心のうちの一つだった。
 それにしても、オオシマイヨは「城の中に、監視カメラは一つもない」と言っていたが、やはり僕たちは監視されているのではないか? でもどうなんだろうな。監視員を監視するのであれば、その「監視員の監視員」も監視されるべきなのだ。そしてそうなれば、その「監視員の監視員の監視員」も同じように監視されるべきだ。となると、これはもう完全にきりがない。ならばと相互に監視させようにも、今度は癒着が問題となる。
 僕がそんなことを考えている間にも、受話器からは沈黙が漏れ続けていた。
 おかしな沈黙だな、と僕は思った。具体的になにがおかしいのかは分からない。ただ「なにかがおかしい」ということに僕は気がついた。だから僕は耳を澄まし、身を寄せるかのようにその沈黙に意識を傾けた。そうすれば微小な音が聞こえるようになるということではない。ちょうど文章の行間を読むみたいに、なにもない音を聴き続けるのだ。
 僕は受話器を持ち替え、「なるほどね」と呟いた。沈黙は僕に反省を促してなどいなかった。彼女はただ単に、無闇にしゃべってぼろが出るのを恐れていただけなのだ。

「……きみは、オオシマイヨだな?」

 意を決して紡がれた僕の言葉に対し、返ってきたのはやはり沈黙だった。永遠に続きそうな沈黙だった。でもその沈黙は笑っていた。沈黙の種類が変わったのだ。だから僕もそれ以上なにも話さなかった。やがてその沈黙も消え失せた。