「かまわないけど、ここのスパって、確か男女別々だろ?」
「今まで、私の他に入ってる女性なんて見たことがないわ」
 まあ、彼女がそう言うのなら大丈夫なのだろう。ふと「入ってきた男性ならいるのか」というくだらない質問が頭に浮かんだが、本当にくだらないので言わないでおく。なにも自分から評価を落とすこともない。
「フットサルをしてる人たちも、男の人ばっかりでしょ?」
「まあね。日曜にはバレーをするから、ひよりさんって人が来るらしいけど」
 もっとも、それも「バレーが先か、ひよりさんが先か」という感じではある。
 僕は彼女に導かれるまま女性向けの脱衣所へと入り、そういえばどう服を脱いだものか――いやそもそも一緒に脱衣所に入ってしまってはダメだったのだ――そうぐるぐると思考を巡らせているうちに、彼女は用意されていた大きなバスタオルを上手に使い、さっさと服を脱いでしまった。まるで手品みたいだと、僕は思いがけず感心してしまう。
「……すけべ」
 オオシマイヨは僕が最初に声をかけたときと同じ目でそう言うと、白いバスタオルの残像を残し浴場へと消えた。
 やれやれ。結局僕の評価は下がってしまうのだ。

         §

「発想は悪くないけれど、たぶんどちらもうまくいかないわね」
 僕が全身に汗をかきながら全霊をもって説明した二つの提案は、彼女によって儚くも一蹴されてしまった。もっとも、汗をかいたのは「僕がそれくらい必死に力説した」という意味ではなく、環境的な理由なのだが。
 サウナルームに入った僕は、まず飲酒量の制限を打ち破る手法を披露した。それは、たとえば僕のようにそもそも飲酒をしない者がお酒を頼み、飲酒者にそれを渡す、というものだった。それで飲酒量制限問題は解決する。
 そして新たに、野球中継の導入運動をするのだ。今のプロ野球はビデオ判定をする場面が多々あるのだし、そういったモニター越しのジャッジを監視塔で代行すれば、仕事になるはずだ。幸い監視塔には、審判の裁定にうるさい者たちが揃っている。