それは本心から出た言葉だった。おおよそのテレビ番組も観られるし、漫画や映画もいち早く観ることができる。娯楽としてはそれで十分じゃないか。
『もしや、組合のことをご存知で? まさか入ったわけではないでしょうね?』
 いつも僕の仕事を褒めてくれる電話の相手が、やけに神経質そうな声で訊く。
「入ったって?」
『組合にですよ』
「入ってないよ」
『ならばよいのですが。……くれぐれも、組合の者とは関わらないでください』
「関わらないよ」
『特に組合の幹部は、……危険な人物ですから。絶対に関わらないでください』
「分かったって」
 ……でももちろん、僕は組合の幹部と深く関わることになる。

         §

 運動階。僕は基本的に他人と積極的に関わりたいとは思わないし、だからこそこの監視塔にとどまっていられるのだが、こと運動に限っていえば、集団で行ったほうが楽しく感じる。
 運動階を気ままに探索してたどり着いたトレーニングルームには、ランニングマシンをはじめとした多種多様な器具が揃っていた。でも僕はそれらを一度も利用することなく、みなで球技を楽しむほうを選んだ。僕にとっての運動階は、いわば社交場のようなものだったのだ。
「今日はサッカー……いや、フットサルなんですね」
 その日、まだ新しい黄色と黒のジャージに身を包み運動階を訪れると、もはや見慣れた面子の先客たちは、四面分のバスケットコートを今日は向きを変え二面分のフットサルコートとして使用していた。
「ああ。ここじゃだいたい、バスケかフットサルだ」
 入念に伸脚運動をしていたリーダー格の男は、僕を見ることなくそう答えると、床に徐々に両脚をつけていき……最終的に見事な百八十度開脚前屈、いわゆる股割りを披露する。
「でもこの前、みんなでドッジボールやりましたよ」
「ドッジボールね。あれは審判が、つまらねぇんだ」
「まあ、当たったか当たってないかだけですもんね」
「判定に抗議したって、水掛け論になるだけだしな」
「試合のために審判がいるっていうより、審判のために試合をやっている感じですもんね」
「試合が先か、審判が先か。……そうだ、日曜はバレーをやるから、ひよりさんが来るぞ」
「ひよりさん?」「日曜に来るから、ひよりさんだ」