職員室に戻ると、いつもよりどこか騒々しい雰囲気で何があったのかと不思議に思った。
「あの、何かあったんでしょうか」
隣の席に座っている3年3組の織田先生に声をかけた。
「あー、なんかさっき保護者の方から電話があったみたいで。三者面談の存在を知らなかったんだと。だいぶお怒りだったみたいだ。なんでもっと何回も知らせてくれないのかーって。今も江藤先生が事情を説明していて」
「はあ」
織田先生から言われて気づいたが、学年主任の江藤先生が電話の前でペコペコと頭を下げながら普段よりも高い声のトーンで「大変申しわけございません」を繰り返していた。
時々、こんなふうに学校に苦情の電話を入れてくる保護者がいる。こちらに非がある場合は誠心誠意謝罪するのだが、今回のように、明らかにこちらのせいではない場合、対応の仕方はその都度変わってくる。
「それでバタバタしているんですね。ちなみに、どなたでしょうか」
私は、電話の主について何の気なしに尋ねた。
「えっと、確か、長谷さんだったかな」
「ええ、本当ですか!」
長谷という名前を聞いた私は思わず大きな声を上げてしまい、職員室にいる先生の視線が一気に集まるのを感じた。
「……すみません」
急に恥ずかしさがこみ上げて、身体を小さくした。
それにしても、なんということだ。私は、三者面談についてクラスで説明した時のことを必死に思い出す。一度だけではない。二度、三度と面談については伝えているし、お知らせの手紙だってきちんと渡した。長谷君にだって、ちゃんと手に渡っていることはこの目で確認したはずだった。
それなのに、長谷君の親御さんから苦情の電話が来るなんて。確かに、あの長谷君のことだ。他の子たち以上に、いっそう気をつけて個別に声をかけるべきだった。それを怠ったのは私。それならば、今電話で謝るべきなのは江藤先生ではなく、私じゃないか。
「あ、2組の生徒だっけ」
「そうです……。あの私、電話代わった方が良いですよね」
私よりも10年先輩の織田先生に、どうするべきかを聞いた。
きっと、いや間違いなく、ここにいる全員が、「早く吉岡先生が代わってよ」と心の中で思っている。もしも他の誰かのクラスの保護者からクレームが来たら、私だって同じことを思う。自分の尻拭いは自分でしないと。
「いや、やめた方がいいよ」
しかし予想していたものとは違い、織田先生は冷静な声色で動こうとする私を制止した。
「どうしてですか」
「だって、今吉岡先生が電話代っても、解決しないと思うよ。それに電話に出てきた相手が吉岡先生みたいな若い女の先生だと、足元見られかねないからさ。いや、変な意味じゃなくて。こういう時は、ベテラン教師に任せるのが一番さ」
クレーム処理に慣れているのか、織田先生は手をひらひらさせてそう答えたのだ。
そういうふうに、考えるんだ。
呆気にとられた私は、「いや」「でも」と再び食い下がろうとしたが、真面目な表情の彼を目にすると、出しゃばったことはしない方が良いのだと教えてくれているようだった。
「あの、何かあったんでしょうか」
隣の席に座っている3年3組の織田先生に声をかけた。
「あー、なんかさっき保護者の方から電話があったみたいで。三者面談の存在を知らなかったんだと。だいぶお怒りだったみたいだ。なんでもっと何回も知らせてくれないのかーって。今も江藤先生が事情を説明していて」
「はあ」
織田先生から言われて気づいたが、学年主任の江藤先生が電話の前でペコペコと頭を下げながら普段よりも高い声のトーンで「大変申しわけございません」を繰り返していた。
時々、こんなふうに学校に苦情の電話を入れてくる保護者がいる。こちらに非がある場合は誠心誠意謝罪するのだが、今回のように、明らかにこちらのせいではない場合、対応の仕方はその都度変わってくる。
「それでバタバタしているんですね。ちなみに、どなたでしょうか」
私は、電話の主について何の気なしに尋ねた。
「えっと、確か、長谷さんだったかな」
「ええ、本当ですか!」
長谷という名前を聞いた私は思わず大きな声を上げてしまい、職員室にいる先生の視線が一気に集まるのを感じた。
「……すみません」
急に恥ずかしさがこみ上げて、身体を小さくした。
それにしても、なんということだ。私は、三者面談についてクラスで説明した時のことを必死に思い出す。一度だけではない。二度、三度と面談については伝えているし、お知らせの手紙だってきちんと渡した。長谷君にだって、ちゃんと手に渡っていることはこの目で確認したはずだった。
それなのに、長谷君の親御さんから苦情の電話が来るなんて。確かに、あの長谷君のことだ。他の子たち以上に、いっそう気をつけて個別に声をかけるべきだった。それを怠ったのは私。それならば、今電話で謝るべきなのは江藤先生ではなく、私じゃないか。
「あ、2組の生徒だっけ」
「そうです……。あの私、電話代わった方が良いですよね」
私よりも10年先輩の織田先生に、どうするべきかを聞いた。
きっと、いや間違いなく、ここにいる全員が、「早く吉岡先生が代わってよ」と心の中で思っている。もしも他の誰かのクラスの保護者からクレームが来たら、私だって同じことを思う。自分の尻拭いは自分でしないと。
「いや、やめた方がいいよ」
しかし予想していたものとは違い、織田先生は冷静な声色で動こうとする私を制止した。
「どうしてですか」
「だって、今吉岡先生が電話代っても、解決しないと思うよ。それに電話に出てきた相手が吉岡先生みたいな若い女の先生だと、足元見られかねないからさ。いや、変な意味じゃなくて。こういう時は、ベテラン教師に任せるのが一番さ」
クレーム処理に慣れているのか、織田先生は手をひらひらさせてそう答えたのだ。
そういうふうに、考えるんだ。
呆気にとられた私は、「いや」「でも」と再び食い下がろうとしたが、真面目な表情の彼を目にすると、出しゃばったことはしない方が良いのだと教えてくれているようだった。