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その後、終わりの会が続けて始まり先生は保護者に挨拶をして、放課後にクラスについて質問や意見を承ると言っていた。そして起立、礼をして全てが終わる。帰る準備が整った子供たちは自分の親の元へと寄って行く。
「あっ、お姉ちゃん」
楓が美佐子の元に来たとき、ミミを見て驚いていた。
「楓ちゃん、こんにちは」
「お姉ちゃん、あれからどうなったの?」
まだ罪悪感が残る楓は消しゴムの事を心配している。ミミはどう言おうか考えていた時だった。久太郎が「お父さん」と呼ぶ声が聞こえて、ふとそっちを見てしまった。
クラスは保護者と子供たちが入り混じり、ざわざわとしている。廊下も他のクラスの保護者が移動してたくさんの人で溢れている。その中で、ランドセルを背負う久太郎と父親の姿が廊下で浮き上がるようにミミの目を引いた。
楓も久太郎を見ていたが、まだ良心の呵責を感じ引っかかっている様子だ。早く久太郎から消しゴムの情報を引き出して、代わりのものを用意しなければとミミは思っていた。
「楓ちゃん、あの消しゴムね……」
きっと見つけて上手くいくことを伝えようとしていると、久太郎がまた大きな声を出していた。
「これ、お父さんが見つけたの?」
「ああ、落ちてたぞ。拾ってケースの中見たら、お前の名前が書いてあって、びっくりした」
「ええ、どこにあったの?」
「学校の門の近くで落ちてたぞ」
その会話は、事情を知っているものには驚きだった。
「お母さん」
楓は泣きそうになりながら美佐子に抱きついた。
「ミミさん、どうしたらいいでしょう」
美佐子も不安な表情を向けた。
ミミも突然のことにどうしていいのかわからず、ロクの姿を探した。ロクはその時、黒板の前で先生と話していた。
ミミは自分で解決しようと覚悟を決めた。
「ええと、あの、ちょっと待っててもらえますか?」
楓と美佐子を置いてミミは廊下に出て行く。緊張しながら久太郎の元へと足を向けた。
「あの、久ちゃん」
「あっ、ミミ姉ちゃん。参観日に来てたんだね。びっくりした」
「あっ、ど、ど、どうも、は、初めまして。久太郎の父の、……宇野海禄と申します。お噂は聞いております。いつもお世話になっております」
海禄はきっちりしたみかけなのに、突然ミミがやってきて驚いている様子だ。
「いえ、そんな何もしてませんが」
ミミもまた恐縮してしまう。
「そうだ、お姉ちゃん、消しゴム見つかったんだよ。ほら」
久太郎はミミに消しゴムを見せた。
青と白と黒のトリコロールのそれは、シンプルな良く見かける消しゴムだった。
「よかったね」
「校門の近くで落ちてたのをお父さんが見つけてくれたんだ。でもさ、今日は赤ちゃんの世話で来れないお母さんの代わりにおじいちゃんとおばあちゃんが来てくれる約束だったのに、まさかお父さんが来てくれるなんて思わなかった。お仕事大丈夫なの?」
「ああ、仕事がこの近くだったから、ちょっとだけと思って、見に来た。でもすぐに戻らないと」
「じゃあ、無理して来てくれたんだ。お父さんが現れて本当にびっくりしちゃった。いつもは仕事で忙しいもんね」
「それじゃ、もう行くから。ええと、ミミさん、お会いできてよかったです」
「あっ、こちらこそ」
ミミは慌てて頭を下げた。
「久太郎、寄り道しないで早く家に帰れよ」
「うん」
海禄は一度教室の中を見て、そして去っていった。きっちりとした身なり、精悍な顔立ちがとてもしっかりした大人に見えた。
「僕のお父さん、かっこいいでしょ。刑事なんだよ」
「ええ、そ、そうなの」
刑事という響きに圧倒されるミミ。
「近くで仕事って、もしかしたら事件なのかな」
久太郎の言葉はさらりと怖い。
「あっ、そうだ、久ちゃんちょっと話があるんだけど」
「何?」
あどけない瞳はこれからの負担をもっと重くした。ミミが振り返ると、楓と美佐子が重い足取りで久太郎の前にやってくる。
廊下は先ほどよりも人が減っていた。学校から解放された気楽さ。それぞれが帰宅するざわついた放課後。ガヤガヤとした中で楓は真剣に久太郎と向き合った。
その後、終わりの会が続けて始まり先生は保護者に挨拶をして、放課後にクラスについて質問や意見を承ると言っていた。そして起立、礼をして全てが終わる。帰る準備が整った子供たちは自分の親の元へと寄って行く。
「あっ、お姉ちゃん」
楓が美佐子の元に来たとき、ミミを見て驚いていた。
「楓ちゃん、こんにちは」
「お姉ちゃん、あれからどうなったの?」
まだ罪悪感が残る楓は消しゴムの事を心配している。ミミはどう言おうか考えていた時だった。久太郎が「お父さん」と呼ぶ声が聞こえて、ふとそっちを見てしまった。
クラスは保護者と子供たちが入り混じり、ざわざわとしている。廊下も他のクラスの保護者が移動してたくさんの人で溢れている。その中で、ランドセルを背負う久太郎と父親の姿が廊下で浮き上がるようにミミの目を引いた。
楓も久太郎を見ていたが、まだ良心の呵責を感じ引っかかっている様子だ。早く久太郎から消しゴムの情報を引き出して、代わりのものを用意しなければとミミは思っていた。
「楓ちゃん、あの消しゴムね……」
きっと見つけて上手くいくことを伝えようとしていると、久太郎がまた大きな声を出していた。
「これ、お父さんが見つけたの?」
「ああ、落ちてたぞ。拾ってケースの中見たら、お前の名前が書いてあって、びっくりした」
「ええ、どこにあったの?」
「学校の門の近くで落ちてたぞ」
その会話は、事情を知っているものには驚きだった。
「お母さん」
楓は泣きそうになりながら美佐子に抱きついた。
「ミミさん、どうしたらいいでしょう」
美佐子も不安な表情を向けた。
ミミも突然のことにどうしていいのかわからず、ロクの姿を探した。ロクはその時、黒板の前で先生と話していた。
ミミは自分で解決しようと覚悟を決めた。
「ええと、あの、ちょっと待っててもらえますか?」
楓と美佐子を置いてミミは廊下に出て行く。緊張しながら久太郎の元へと足を向けた。
「あの、久ちゃん」
「あっ、ミミ姉ちゃん。参観日に来てたんだね。びっくりした」
「あっ、ど、ど、どうも、は、初めまして。久太郎の父の、……宇野海禄と申します。お噂は聞いております。いつもお世話になっております」
海禄はきっちりしたみかけなのに、突然ミミがやってきて驚いている様子だ。
「いえ、そんな何もしてませんが」
ミミもまた恐縮してしまう。
「そうだ、お姉ちゃん、消しゴム見つかったんだよ。ほら」
久太郎はミミに消しゴムを見せた。
青と白と黒のトリコロールのそれは、シンプルな良く見かける消しゴムだった。
「よかったね」
「校門の近くで落ちてたのをお父さんが見つけてくれたんだ。でもさ、今日は赤ちゃんの世話で来れないお母さんの代わりにおじいちゃんとおばあちゃんが来てくれる約束だったのに、まさかお父さんが来てくれるなんて思わなかった。お仕事大丈夫なの?」
「ああ、仕事がこの近くだったから、ちょっとだけと思って、見に来た。でもすぐに戻らないと」
「じゃあ、無理して来てくれたんだ。お父さんが現れて本当にびっくりしちゃった。いつもは仕事で忙しいもんね」
「それじゃ、もう行くから。ええと、ミミさん、お会いできてよかったです」
「あっ、こちらこそ」
ミミは慌てて頭を下げた。
「久太郎、寄り道しないで早く家に帰れよ」
「うん」
海禄は一度教室の中を見て、そして去っていった。きっちりとした身なり、精悍な顔立ちがとてもしっかりした大人に見えた。
「僕のお父さん、かっこいいでしょ。刑事なんだよ」
「ええ、そ、そうなの」
刑事という響きに圧倒されるミミ。
「近くで仕事って、もしかしたら事件なのかな」
久太郎の言葉はさらりと怖い。
「あっ、そうだ、久ちゃんちょっと話があるんだけど」
「何?」
あどけない瞳はこれからの負担をもっと重くした。ミミが振り返ると、楓と美佐子が重い足取りで久太郎の前にやってくる。
廊下は先ほどよりも人が減っていた。学校から解放された気楽さ。それぞれが帰宅するざわついた放課後。ガヤガヤとした中で楓は真剣に久太郎と向き合った。