お母さんは、お父さんと同じそんな思いを三条くんにさせたくないって、そんな必要ない苦労をさせたくないって、そう言ってるんだ。
「このままじゃ三条さんがかわいそうだって思う。せっかく日向を好きになってくれたのに。だから、日向。農園のことなんか忘れて、女子高生らしく、三条さんと素敵な恋をして。もしかして、十六歳になったとたん、プロポーズされるかもね?」
 もうされてます。
 めっちゃはぐらかしましたけど。
「いやー、それはないでしょ。お母さん、この話はまた今度ね? 今日はもう休んで?」
 お母さんを驚かせないように、ゆっくりとベッドから離れる。
「日向……」
「あたしも彼の夢を奪いたくない。あー、でも、どうしてあたしがOKすることが前提で話が進んでるの? あたしにも選ぶ権利があるんだけどっ?」
 そう言ってあたしが唇を尖らせると、お母さんが口を押えてププッっと吹き出した。
「日向、おやすみ。気をつけて帰ってね」
「うん。お母さん、おやすみなさい」
 音を立てないように、静かに閉めた病室のドア。
 農園は絶対に閉めない。
 お母さんができなくなったら、絶対あたしがやる。
 悪いけど、三条くんを巻き込むわけにはいかない。
 これは、あたしの夢。
 あたしだけの、あたしのための夢。 
 だから、三条くんがどんなにあたしを好きだって言ってくれても、あたしはそれに応えられない。
 ごめんね、三条くん。
 ありがとう、三条くん。

「え? 小夜ちゃん、野球部のマネージャーになったのっ?」
「ほんと困っちゃうわっ。ちょっと練習を見に行っただけなのに、あのジャガイモの集団から懇願されたのよっ?」